<前回からの続き>
お金を投資する
現在価値と将来価値
『金融の教科書』みたいなタイトルの本を読んでいると、必ずと言っていいほど出てくる問題があります。それは「今日の100万円とn年後の100万円の価値は同じか?」というものです。前回の記事を読んでいただいた方ならおわかりになると思いますが、今日の100万円の価値とn年後の100万円の価値は同じではありません。
今現在でのお金の価値のことを、金融用語で「現在価値」と言います。今現在での100万円の現在価値は100万円です。この100万円を年利5%複利で5年運用すると、5年後には127万円(千円以下切り捨て)になります。この127万円を「将来価値」と言います。
では、「5年後の100万円」の現在価値はいくらになるのでしょうか?上の例と同じく、年利5%で運用したとしましょう。将来のお金の現在価値を求めるには、前回の記事に書いたワタルくんのおこづかいの割引と同じ、1/(1+0.05)^n の計算式を使います。
1,000,000/(1+0.05)^5=783,526円(端数切り捨て)
ということで、5年後の100万円の現在価値はだいたい78万円くらい、ということになります。
(現在価値と将来価値について、より丁寧な解説はこちらのサイトをどうぞ)
このように、お金の価値は時間の経過とともに変わるということは、資産運用について考える際には常に意識しておく必要があります。
こういった「時間の経過とともに変わるお金の価値の計算」については、以下の書籍が非常に参考になります。Excelを使える環境が必要になりますが、実際に自分の手と頭を使って計算する練習ができるので、身につきやすいと思います。
石野雄一 『道具としてのファイナンス』
資産運用の金利・利回り
前回の記事では、ワタルくんのお母さんは月利5%(年利60%!)という暴利を取っていたり、上の例でも「年利5%で運用したと仮定」したりしていますが、現実の運用利回りはもっとシビアです。例えば、銀行預金の金利はほとんどゼロに近いです。投資信託や保険などでも、年利5%は高利回りの部類に入ると思います。
ちなみに「金利(利率)」と「利回り」とは似て非なるものなのですが、ここで説明すると長くなってしまうので、以下のページを読んでください。
日本証券業協会 利率と利回りの違いって何?
美味い話は無い
一般的には、金利・利回りはリスク(不確実性)とほぼ正比例します。低金利の金融商品は値動きの幅が少なく、投資したお金はちゃんと返ってくることが多いです。逆に高金利の金融商品は値動きの幅が大きく、投資したお金が返ってこないこともあります。そして、あまりにも高い金利を謳った金融商品(例えばワタルくんのお母さんの月利5%とか!)は、だいたい詐欺です。過去の記事に書きましたが、上場企業が騙されたケースもあります。夢の無い言い方で申し訳ありませんが、この世に美味い話は無いということは覚えておいてください。
投資目的で金融商品を購入する際には、「友達の先輩のすごい人」とか「ネットのインフルエンサー」とかからではなく、ちゃんとした銀行や証券会社などの窓口で購入することをおすすめします。
※ちなみに、投資したお金が返ってこなくなること、利息が払われなくなることを、金融用語で「デフォルト」と言います。後にも出てきますので、よかったら覚えておいてください。
SMBC日興証券 「デフォルト」
お金を借りる
借金と利息
前回の記事に「利息とはお金を借りる対価である」と書きました。つまり、お金を借りるには、借りたお金以上のお金を返済しなければならないということです。
お金を借りるのは簡単です。銀行や消費者金融に行けばカードローンを契約できますし、クレジットカードを持っていればキャッシングやリボ払いを利用することができます。借りるのは簡単です。しかし、借りた金を返すのは本当に大変なんです。
たとえばワタル君が、1の方法(1ヶ月あたり5%単利)でお母さんから3年(36ヶ月)分のおこづかい36万円を前借りしたとします。これで、ワタルくんは3年間おこづかいをもらえなくなります。しかも、ワタルくんのお母さんはヤミ金ばりの高金利ですので、36ヶ月後に33万円の利息を支払わなければならなくなるのです。
もう少し現実的に、リボ払いを50万円使って、毎月2万円ずつ返済していくケースについて考えてみましょう。この場合、完済までに要する期間は30ヶ月(2年半)、返済総額は約60万円、つまり10万円以上の利息を払うことになります。さらに、途中でリボの枠を使ってしまうと、その分元金が増えてしまうため、より長期間返済を続けなければならなくなりますし、より多額の利息を支払わなければならなくなります。リボ払いは、消費者金融史上最悪の発明の1つだとすら思います。
借りてはいけない
リボ払いについては、以下のページで(カード会社にしては)わりと誠実に説明されています。
JCBカード リボ払いの金利・手数料は高い?返済額を減らす方法を徹底解説!
ただ、この記事は下のほうに「高額なものはカードローンで賢く買おう」と書いてありますが、高額なものを買う時にカードローンを使うのを「賢い」とは言いません。高額なものをカードローンで買ってしまうと、それだけ多額の利息を払わなければならなくなってしまうからです。
高額なものがほしければ、毎月コツコツお金を貯めて買いなさい。それでも買えないのであれば諦めなさい。高額なものでも、居住用不動産(マイホーム)以外の買い物のために借金をするのはやめなさい。
金融業者の稼ぎ方
さて、「自分がお金を出す側」である資産運用の利率(数%)と、「自分がお金を借りる側」であるカードローンやリボ払い(10%超)の金利には、なぜこんなにも大きな差があるのか。それは、多くの金融業者がこの金利差を収益源としているからです。
例えば銀行であれば、ほぼゼロの金利で集めた預金を、企業や個人、お金を必要としている顧客に「しっかりとした金利」を付けて貸し付けることで収益を上げています。もっとも、銀行側からすれば、貸したお金が必ず返ってくるわけではありません。銀行預金の金利よりもローンの金利のほうが高いのは、銀行が収益を上げるためであると同時に、貸したお金が返ってこない、デフォルトのリスクを買う対価であるとも言えます。これは保険会社や証券会社など、あらゆる金融機関について同じことが言えます。
また、カードローンやリボ払いの金利が高い理由はいくつかありますが、その中の1つとして、「カードローンやリボ払いはデフォルトのリスクが高い」という点が挙げられます。要するに、お金に困った人や、ワタルくんのように金銭管理が苦手な人がカードローンやリボ払いに手を出してしまい、返済できなくなってしまうことがよくあるのです。そこで、一定の顧客が返済不能になっても、他の顧客からの収益で黒字にできるよう、金利が高く設定されているのです。カード会社はどうやって収益を上げているのか、なぜカードローンやリボ払いの金利は高いのか、その理由を頭に入れておいてほしいと思います。
「無知の知」とマネーリテラシー
さてここまで読んでいただいて、「金融とはなんなのかよくわからなかった」という方もいらっしゃるのではないでしょうか。私の説明が拙いのは大いにありますが、それ以上に金融とはよくわからないものなのです。なぜなら、お金に関することはすべて「金融」だから。「金融とはなにか」という問いは、「宇宙とはなにか」「神とはなにか」という問いと同じで、理解の果てが無いものなのです。金融業界にお勤めの方や、普段から証券取引などをやっている方でないのなら、金融に深入りする必要はありません。よくわからないままで大丈夫です。
そもそも、まず「金融に関して己が無知であること」を知ることが、正しいマネーリテラシーを身に着ける第一歩だと思うわけです。ソクラテスもそんなようなことを言ってましたよね?全然わかってないのに、YouTubeの動画とかインフルエンサーのセミナーとかを観て、わかったつもりになるのが一番ダメです。わからないならわからないでいいのです。
ただ、金融とまったく関わらずに生活していくことは不可能です。そもそも毎月のおこづかいやお給料は現預金でもらっている、この時点で金融に関わっています。クレジットカードや電子マネーを日常的に使っている方は多いと思いますが、これも金融です。また、保険や貯蓄など、生活に必要な金融もあります。さらに最近では投資だ資産運用だNISAだiDeCoだとやかましく言われていますから、どうしても「金融」のことが気になってしまいますよね。
ただ1つ言えるのは、「金融」とは身の丈に合った付き合い方をしていくべきということです。
まず、借金をしてはいけません。会社を経営している方や、事業を営んでいる方ならともかく、サラリーマンや学生の方は借金をしてはいけません。とにかく借金をしてはいけません。今日ではクレジットカード無しでの生活は極めて不便ですから、こればかりは致し方ないにしても、クレジットカードも借金だということを忘れないでください。
投資や資産運用については、常に不確実性が伴うことを忘れないでください。「常に不確実が伴う」ということはどういうことか。どれだけ安全そうな投資でも、結果を確実に予測することは絶対にできない、ギャンブル的な要素を排除することはできないということです。
例えば手取り月収が25万円、生活費が20万円くらいだとして、余った5万円を投資に回すのはいいでしょう。余ったお金ですから。しかし、無理に生活費を削って10万円を投資に回したり、あまつさえ借金をして投資に回すのは、競馬に全財産を突っ込むのと同じくらい馬鹿げています。「投資はギャンブル」とまでは言いませんが、「ギャンブル的な部分もある」ということは忘れずに、余剰資金の範囲内でやりましょう。株を買う時は、半分はお金を捨てる気持ちで買いましょう。「お金に働いてもらう」などと抜かす前に、まずは自分が勤勉に労働しましょう。
「金融」とはよくわからなくて不確実なもの、それさえわかっていればOKです。「よくわからない」という前提に基づいて、お金の使い方を考えていきましょう。まかり間違っても「わかった」などと思いこんではいけません。
金融の中でも、保険については過去の記事に書いたものがあるので、よろしければご笑覧ください。
egao-egao-egao.com 貧乏人のための保険入門
egao-egao-egao.com 金が無い若者のための保険入門