金が無い若者に保険は必要か
一口に保険と言っても、様々な種類のものがあります。生命保険、医療保険、がん保険、自動車保険、自転車保険、介護保険、個人賠償責任保険、火災保険、家財保険、地震保険、旅行保険、ペット保険……たくさん種類がありすぎて、どれに加入すればよいのか(加入する必要があるのか)よく分からないという方も多いのではないかと思います。
また、特に若い方ですと、心身ともに健康で、頭もシャキッとした方が多いでしょうから、「そもそも自分に保険は必要なのか?」と疑問に思う方も多いのではないでしょうか。
結論を言えば、若くて健康な方にも保険は必要です。
保険というのは、病気や事故といった「起こるかもしれない」事態に備えるためのものです。そのため、絶対に病気をしない、絶対に事故を起こさないのであれば、保険は不要です。例えば現在すごく健康だから、医療保険やがん保険は必要無いと考えられるかもしれません。
しかし、未来のことは予測不可能です。今日は元気で健康でも、来年、来月、明日は病気にならない・事故に遭わないという保証は絶対に無いのです。ですから保険は必要です。ただ、保険の中にも、必要なものとそうではないものがあります。
保険に加入すると、当然ながら保険料を払わなければなりません。保険料を支払うにしても、自分の収入の範囲内でしか支払うことはできません。また、保険事故(※)に遭う可能性が低い事象について保険に加入するのはお金のムダです。
(※保険金の支払事由、例えば死亡や入院、交通事故などのことを保険事故といいます)
まして若いうちは所得も少ないでしょう。「金が無いから保険料を払いたくない」という意見は至極もっともです。しかし、若い方でも入っておいたほうがいい保険があります。
今回は、年齢は20代~30代中盤、独身一人暮らしで、所得はそれほど多くはない方向けに、どの保険が必要で、どの保険は不要なのかを、それぞれの保障範囲と合わせて紹介します。
金が無い若者に必要な保険・不要な保険
生命保険
独身の間は不要です。
生命保険は、自分が死亡した際に支払われる保険です。主な目的は、自分が死んだ後、扶養していた家族の生活を保障することです。
独身者の場合、扶養する家族はいないわけですから、生命保険は不要です。葬式代など死後の支出を用意するために加入するという選択もありえますが、極論すれば死んだら終わりなので、必要とまでは言えないでしょう。
一般的に、生命保険は若いうちに加入したほうが、毎月の保険料は安くなります。「将来結婚して家族を持つかもしれない」というリスクを考慮して、早めに加入しておくという考え方もあります。しかし、個人的には結婚してからでいいんじゃないのと思います。
また、生命保険には、大きく分けて「積立型」と「掛け捨て型」の2種類があります。積立型の場合は毎月支払った保険料が資産としてストックされるのに対して、掛け捨て型の場合は支払った保険料はストックされません。こう聞くと「積立型のほうがいいじゃないか!」と思うかもしれません。しかし、同じ死亡保険金額で、毎月支払う保険料を比較すると、積立型の保険料はアホほど高くなります。所得がそれほど多くない方が積立型の生命保険に加入してしまうと、「保険料を支払うために働く」というバカバカしい状態に陥るおそれすらあります。
仮に資産をストックしたとしても、あの世に金を持っていくことはできません。さらに資産を残すべき人がいないのなら、そもそもストックする意味がありません。仮に生命保険に加入するにしても、金が無いうちは背伸びして積立型で資産形成を志すよりも、掛け捨て型で死亡保障だけ買うことをおすすめします。
繰り返しになりますが、個人的な結論としては、金が無い独身の若者に生命保険は不要です。
※7/20追記 最近読んだ本にも、「独身者に生命保険は要らない」とハッキリ書いてありました。
アンドリュー・O・スミス著・桜田直美訳『アメリカの高校生が学んでいるお金の教科書』
医療保険
必要です。
医療保険は、病気や怪我で通院治療や入院・手術をした際に支払われる保険です。
日本は国民皆保険ですから、病気や怪我をした際には健康保険を使って3割負担で治療できます。しかし、通院や入院が長期にわたると3割負担でも相応の金額になりますし、その間は仕事ができずに収入が途絶する場合もあります。
医療保険に加入しておけば、少なくとも治療費の心配をする必要は無くなります。死んだら人生終わりですが、病気や怪我をしても人生は続きますから、医療保険には加入して備えをすべきです。
がん保険
必要です。
がん保険は、がんで通院治療や入院・手術をした際に支払われる保険です。最近は3人に1人はがんになると言われます。かつてはがんは死に至る病でしたが、最近はちゃんと治療すればけっこう治ります。そのため、医療保険と同じ理由で加入すべきです。
がんの場合、重量子線治療などの先進医療を受けることで、治る可能性はより高まります。しかし、先進医療は治療費が高額(数百万円以上)です。そのため、先進医療特約を付帯させることをおすすめします。先進医療特約を付けておけば、少ない負担でより高度な治療を受けることができます。
自動車保険
自動車を運転する場合は絶対に必要です。
自動車保険は、自動車事故で損害を与えた時や、損害を被った時に支払われる保険です。強制加入の自賠責保険と対比して、任意で加入するため任意保険と呼ばれることもあります。
自分の車の修理費を保障する車両保険の部分はまあ、どうでもいいです。大事なのは、他人に損害を与えてしまった際の保障です。
物損事故(事故で他人の車を破損させた、物を壊した)の場合も大変ですが、最悪なのは人身事故(事故で人に怪我を負わせた、人を死なせた)の場合です。人身事故では、賠償金が数千万円~数億円と、非常に高額になることも少なくありません。車を所有する際には、一応自賠責保険という強制加入の保険に必ず入ることになります。しかし、自賠責保険の保障額は低く、人身事故だと大体の場合において補償額はまったく足りません。自動車保険に入っていない場合、自賠責保険で足が出た分の賠償金は自分で支払わなければなりません。
自動車保険に加入していないと、事故の被害者の人生を台無しにした上に、高額な賠償金の支払いのために自分の人生も台無しになってしまいます。
そのため、自動車を運転する場合、自動車保険は必須です。自動車保険では、保障される金額を選択することができますが、対人保障の金額は絶対に無制限にしてください。できれば対物保障も無制限にしておくといいでしょう。
自転車保険
自転車を運転する場合は絶対に必要です。
自転車保険は、自転車事故で損害を与えた際や、損害を被った際に支払われる保険です。都道府県によっては加入が義務化されている地域もあるのですが、まだそれほど徹底されていないのが現実です。
自転車の事故の場合でも、人に怪我を負わせたり死なせてしまったりした場合、高額の賠償金を支払わなければならなくなります。そのため、自動車保険と同じ理由で加入すべきです。現在の自転車保険だと、対人補償が無制限の保険は少ないように思います。対人補償額の上限は1億円だったり2億円だったりしますが、一番高い金額で加入することをおすすめします。
介護保険
独身の間は不要です。
介護保険は、名前のとおり介護に必要な費用を保障するための保険です。独身のうちから自分の介護の心配をする必要はありません。独身高齢者の面倒は、行政が結構ちゃんとやってくれます。そして時が来たら死にましょう。
個人賠償責任保険
どっちでもいいです。
個人賠償責任保険は、自動車や自転車に限らず、何らかの原因で他人に損害を与えてしまった際に支払われる保険です。例えば、借りていたものを壊してしまった場合などに使えます。
正直よく注意して生活していればそれほど世話になるものではないので、不要と言ってもいいです。しかし、自動車保険や火災保険など、他の保険のオプションとして安価で付けられる場合があるため、心配なら加入してもいいと思います。
火災保険
必要です。
火災保険は、住宅で火災が起きて被害が発生した際に支払われる保険です。賃貸だと、大体の場合、火災保険に加入しないと部屋を借りられません。部屋が燃えたら、自分だけでなく大家さんも困りますからね。
独身で自己所有の住居がある場合でも、家が焼失したら生活がどうにもならなくなってしまうため、加入は必須です。
また、自宅の火災が隣家に延焼して、他人に被害を与えてしまうこともあります。この点にも留意して保障を選ぶことをおすすめします。
家財保険
必要です。
家財保険は、何らかの原因で家財(家具・家電など)に損害が出た場合に支払われる保険です。大体の場合、火災保険のオプションについてきます。火災保険では、建物の損害は補償してくれるのですが、家財の損害は補償してくれません。冷蔵庫や洗濯機や電子レンジが火災で焼失したら、これはこれで生活していけなくなるでしょう。
家財保険では、補償金額を選ぶことができます。一人暮らしであれば、補償額は200万円くらいあれば十分でしょう。
地震保険
必要です。
地震保険は、地震で住居に損害が出た場合に支払われる保険です。火災保険だけだと地震の被害は面倒を見てもらえないのですが、日本は地震が多いですから、入っておいたほうがいいです。
地震保険も家財保険と同様に、大体の場合は火災保険のオプションについてきます。賃貸の場合、建物の地震保険は大家さんが入っていますので、建物については考慮する必要はありません。しかし、大家さんが加入している地震保険では、入居者の家財は保障してくれないことが多いです。ですので、地震による家財の損害についてはご自分の火災保険に付帯させましょう。
自己所有の住居がある場合にも、火災保険とセットで入りましょう。
旅行保険
海外旅行へ行くなら入っておくといいです。
旅行保険は、旅行中に病気や怪我、その他損害を負った際に支払われる保険です。日本国内を旅行する場合であれば、旅先の病院で治療を受けたり入院したりしても、健康保険が使えますので、特に心配する必要はありません。
問題は、海外旅行中に病気や怪我をした場合です。海外旅行中だと、大体の場合において治療費は全額自己負担になります。デジカメを盗まれた、カバンが壊れた程度の財産的な損害はともかく、医療費となると金額が大変なことになります。
旅行保険の場合、旅行する期間だけ加入することができますので、海外旅行をする際は契約しておくと安心できます。
ペット保険
ペットがいる場合は入っておくといいです。
ペット保険は、ペットが病気や怪我をした際の治療費、ペットが他人に損害を与えた際の賠償を保障する保険です。
一般的にペットの病気の治療は高額になりがちなので(昔の話ですが、500円で買ったハムスターを動物病院で治療してもらったら5,000円近くかかりました)、ペットを飼っているなら加入してもいいでしょう。
ただし、毎月の保険料はそこそこ高いです。プランによっては、人間の医療保険の保険料よりかなり高くなります。そのため、加入を検討する際は、お財布とよく相談してください。
また、ワンちゃんを飼っている方ですと、お散歩中に他人に噛みついて怪我をさせてしまうことがあるかもしれません。噛みついた相手が小さなお子さまだったりすると、大怪我をさせてしまう可能性もあります。他人への賠償という点でも、加入していいと思います。
自分の生活に必要な保険だけでOK
若い独身者の場合、極論を言えば自分の生活さえ担保できていればOKなのです。配偶者の今後の生活や、子供の教育費などを考慮する必要はありませんから、日々の生活の中のリスクは必然的に限定されます。
また、最近では生涯未婚率も高まっていますから、従前のような「いつか結婚して子供を持って家を持って……」というライフスタイルに合わせた保険プランではなく、独身者は個々人に合わせた、無駄のない保険プランを考えるべきです。
冒頭で書いたように、保険料は自分の収入の範囲内でしか支払うことはできません。不要な保険に入ってしまうと、学習や趣味や娯楽に使えるお金が減ってしまいます。はっきり言ってお金の無駄です。特に若年の独身層にあっては、物価が上がっているのに給与は据え置きという、全体としてやや苦しい経済状況ですから、不必要な保険料の支払いは避けたほうがいいでしょう。
将来に向けた資産形成のために積立型の生命保険を活用する、という考え方もあります。しかし、本来の保険とは、将来のリスクに備えるためのもの、遺される家族のための財産を確保するためのものであって、積極的に運用して利益を得るためのものではありません(まあ近時では生命保険が資産運用の一種となっており、個人的には嘆かわしく思っていますが……)。資産運用をするなら、積立型の生命保険よりも、積立型の投資信託などをおすすめします。
また、上にも書きましたが、積立型の生命保険で資産形成をしようとする場合、毎月の保険料はかなり高額になります(だいたい毎月数万円~です)。それよりも他のこと、趣味や旅行や娯楽にお金を使ったほうが、後々の人生が豊かになるんじゃないかなと思います。
なによりも、独身の若者は将来の心配をするより、今を懸命に生きたほうがいいと思います。独身の若者のこれから先の人生では、たしかにたくさんのリスクがあります。一方で、もっとたくさんの可能性があります。
オッサンっぽい言い方になってしまって誠に恐縮ですが、若いうちは将来の小さなリスクを心配してクヨクヨするよりも、現在の大きな可能性にベットしてほしいと思います。例えば将来結婚して家族を持つかもしれないとして、そうなったらそうなったで、その時に考えればいいのです。案外なんとでもなります。
ただ、病気や怪我、事故は誰にでも、突然起こります。自分の大切な人生を守るためにも、必要最低限の保険は準備しておいてほしいとも思います。お金が無い人向けの保険については、こちらの記事でも紹介していますので、よければご笑覧ください。