「金融リテラシー(マネーリテラシー)」とは、お金に関すること全般、金融に関する知識のことです。で、「金融」と聞くと、なにか難しいように思う方も多いかと思います。実際、「金融」という単語に含まれる事柄は多種多様です。素人でも簡単にわかるものもあれば、中にはプロでもよくわからないものもありますので、無理はありません。
ただ、「金融」という言葉の意味、「金融」が持つ機能や役割自体は、それほど難しいものではありません。本稿では、大人にも、子供(目安は私の子供、高校生くらいを想定しています)にもわかるように、「金融」の意味と、「金融」が私たちの生活とどのように関わっているのかについて書きます。わからない漢字や単語が出てくるかもしれませんが、辞書などで調べてください。
「金融」とはなにか
まず「金融」という言葉についてです。「金融」とは、その名のとおり「お金を融通すること」を意味します。
「お金」については、大体わかると思います。身近な例で言えば、財布に入っている現金や、銀行の預金などのことです。
問題は「融通」です。元々は仏教の用語らしいのですが、普段はあまり使わない言葉なので、なんのこっちゃわからないかもしれません。
Weblio辞書 「融通」
「金融」の中の「融通」とは、簡単に言えば、お金の流れのことです。金融は「経済の血流」とも言われます。まだわかりませんね。この記事では、金融の主要な役割である「お金の流れ」について、身近な例でもうちょいわかりやすく考えてみましょう。
タカシくんちの場合
- タカシくん(12歳)は、お母さんから毎月25日に5,000円のおこづかいをもらっています。
- タカシ君の2024年7月21日時点での所持金は2,000円です。
- タカシくんは、大好きなアニメの限定版BluRay(12,000円)を買いたいと思っています。
- 限定版BluRayは、2024年7月31日までの限定発売です。
- 7月25日におこづかいをもらうと、タカシくんの所持金は7,000円になります。
- しかし、限定版BluRayを買うにはあと5,000円足りません。
- そこで、タカシくんはお母さんに「8月分のおこづかいを前借りさせてください」と頼みました。
- お母さんは「しょうがないなあ」と言って、8月分のおこづかい5,000円を前借りさせてくれました。
- 7月25日に7・8月分のおこづかい10,000円を受け取ることで、タカシくんの所持金は12,000円になりました。
- そして限定版BluRay(12,000円)を買うことができました。タカシくん、よかったね。
- しかし、タカシくんの8月のおこづかいは無しになってしまいました。
上の例で言えば、お母さんは、タカシくんの8月分のおこづかい5,000円と引き換えに、7月に5,000円を融通してあげたわけです。それによって、お母さんからタカシくん、タカシくんからアニメへと、お金の流れが生まれました。これも立派な金融です。
今回の例で言えば、タカシくんは7月25日に、お母さんから5,000円の借金をしました。この借金を、8月25日にもらうはずの5,000円をもらわないことによって相殺して、ゼロにしたわけです。
※相殺(そうさい)とは、プラスとマイナスを差し引きすることをいいます。
Weblio辞書 「相殺」
ワタルんちの場合
おこづかいを前借りするコスト
次は、少し複雑な例について考えてみましょう。
- ワタルくん(15歳)は、お母さんから毎月25日に10,000円のおこづかいをもらっています。
- ワタルくんの2024年7月21日時点での所持金は8,000円です。
- ワタルくんは、大好きなアニメの限定版Blu-ray BOX(36,000円)を買いたいと思っています。
- 限定版Bru-ray BOXは、2024年7月31日までの限定発売です。
- 7月25日におこづかいをもらうと、ワタルくんの所持金は18,000円になります。
- しかし、限定版Blu-ray BOXを買うにはあと18,000円足りません。
- そこで、ワタルくんはお母さんに「8・9月分のおこづかいを前借りさせてください」と頼みました。
ここまではタカシくんちのケースと同じです。タカシくんちの例にならえば、ワタルくんは8・9月分のおこづかいとして20,000円前借りできるはずです。しかし、ワタルくんはもう15歳、お母さんはワタルくんに、マネーリテラシーについて学んでほしいと思っています。そこで、前借りの方法について、次の2つのうちからどちらかを選ぶことにしました。
1. 前借りする分に1ヶ月あたり5%単利の利息を付けて、それを10月分のおこづかいから支払う
または
2. 前借りする分を1ヶ月あたり5%複利で割り引く
どちらの場合でも、ワタルくんがおこづかいを前借りするのにコストがかかります。それぞれの場合において、ワタルくんが前借りできるおこづかいはそれぞれいくらになって、どちらを選ぶほうがワタルくんにとってお得になるのでしょうか。
※ちなみに月利5%はとんでもなく違法な暴利ですが、あくまでご家庭の中での例として考えてください。
※金利(利率)と利息、単利と複利については、以下のリンクも参考になります。
三菱UFJ銀行 金利とは?利息の計算方法など仕組みや注意点をわかりやすく解説!
三井住友銀行 わかると差が出る「単利、複利」
1の場合
「利息」とは、お金を借りる対価のことです。ワタルくんは、8・9月分のおこづかいを前借りする対価として、1月あたり5%の利息を、10月のおこづかいから支払わなければなりません。ちなみに「単利」とは、「元金に対してのみ利息がかかる」ことを言います。
ワタルくんが10月に支払う利息はいくらになるのか、具体的に計算してみましょう。
まず8月分には、1ヶ月分の利息が付きます。
10,000×(0.05×1)=500円
次に9月分には、2ヶ月分の利息が付きます。
10,000×(0.05×2)=1,000円
ワタルくんは、8・9月のおこづかい前借り分として20,000円を受け取ることができます。しかし合計3ヶ月分の利息を支払わなければならないため、10月分のおこづかいは10,000‐1,500=8,500円となります。
2の場合
「割引」とは、将来受け取ることができるお金から、その期間の利息をマイナスすることを言います。また「複利」とは、「利息を元金に加えた金額に利息がかかる」ことを言います。2の場合だと、毎月のおこづかい10,000円から、1ヶ月あたりの金利に相当する金額を差し引いて受け取ることができます。以下のような計算式を用います。
割引後の金額=元金÷(1+金利)^期間
割引についてはやや理解が難しいので、具体的に計算してみましょう。
まず、8月分についてです。1ヶ月あたり5%の割引ですので、計算は以下のようになります。
10,000÷(1+0.05)^1=9,523円(端数は切り捨て)
次に9月分です。2ヶ月の計算は、以下のようになります。
10,000÷(1+0.05)^2=9,070円(端数は切り捨て)
よって、ワタルくんが8・9月のおこづかいとして前借りできる金額は、9,523+9,070=18,593円となります。
1と2どっちが得か?
さて、ワタルくんは1と2、どちらの方法を選ぶべきなのでしょうか?
1の場合、8~10月の3ヶ月間に受け取ることができるおこづかいの総額は、
10,000円(8月分)+10,000円(9月分)+8,500円(10月分)=28,500円
となります。
一方、2の場合は、
9,523円(8月分)+9,070円(9月分)+10,000円(10月分)=28,593円
となり、2のほうが93円多く受け取ることができます。
では2のほうがお得なのか?というと、一概にそうとは言えません。
ワタルくんがアニメの限定版Bru‐Ray BOXを買うために不足している(必要な)金額は、18,000円です。1の場合、20,000円前借りできますので、まだ2,000円余裕があります。一方、2の場合は18,593円しか前借りできませんので、Bru-Ray BOXを買ったら、あと593円しか余裕がありません。不測の出費があった場合のことを考えると、1のほうが安心、という考え方もできます。
ワタルくんのお母さんの視点から
今度は逆に、ワタルくんのお母さんの視点に立って考えてみましょう。ワタルくんのお母さんは、毎月ワタル君に10,000円ずつおこづかいをあげています。実はワタルくんはお金にルーズなところがあり、以前からたびたびおこづかいの前借りをせがんでいました。お母さんは、これを機に前借りのルールを作ろうと考えました。
お母さんとしては、1と2、どちらのルールを選ぶのがよいのでしょうか。
わかりやすく、1年(12ヶ月)分のおこづかいを前借りした場合、お母さんはワタルくんはいくらおこづかいを支払い、いくら利息を受け取ることになるのかについて考えてみましょう。
まず1の場合です。お母さんは10,000円×12ヶ月分=120,000円を一度に支払う代わりに、12ヶ月後に利息として39,000円受け取ることができます。支払い総額は81,000円です。2の場合、お母さんは一度に88,632円を支払うことになります。支払い総額で言えば、1のほうが少なく済みます。
しかし、お母さんは考えました。しばしばおこづかいの前借りをせがんでいるワタルくんが、12ヶ月後に39,000円の利息を支払うことなどできるはずがないと。他のことはともかく、お金のことに関しては、残念ながらワタルくんには信用が無いわけです。そこでお母さんは、利息を回収する必要が無い、2のルールを選ぶことにしました。
金融と信用
金融において、「信用」とは非常に重要な概念です。金融用語である「信用」とは、簡単に言えば「お金をちゃんと返してくれるだろう」「○○万円までなら貸しても大丈夫だろう」という期待の高さ・低さのことを言います。
信用が高ければ、高額なお金を借りることや、低い金利でお金を借りることができます。逆に信用が低いと、少額しかお金を借りられなかったり、借りられたとしても高金利になったりします。ワタルくんはお母さんからの信用が無いため、高金利でもお金を借りることができないわけです。
野村證券 「ローンと信用」の基礎知識 第1回 信用ってなに?
このように、「信用」に基づいてお金の流れを作ることは、「金融」の大きな役割の1つです。ただ、多数ある役割の中の1つでしかないとも言えます。全体としての「金融」が果たす役割は非常に幅広いため、ひとつひとつ紐解いていくのは面倒です。次回は総論的な、少し抽象的な話になります。
<次回へ続く>