オウケイウェイヴと消えた50億円

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企業不祥事

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適時開示は宝の山

企業の「適時開示」というのをご存知でしょうか?

株式を上場している企業の場合、私や皆さんのような一般投資家も、株主(≒会社のオーナー)になれるわけです。しかし、株主は単に株式を持っているだけで、会社で働く役員や従業員ではありませんから、いま会社で起こっていることをタイムリーに知ることはできません。

このような情報の非対称性を埋めるために、上場企業は「適時開示」という形で、会社で起こった重要なニュースを、株主や投資家に向けて配信しています。

さて、適時開示で配信される情報といえば、今期の業績がどうとか、役員が変わったとか、業務提携がどうとか、株主以外にとっては大体どうでもいい話題ばかりです(当然ですが)。

しかし、たまに面白いネタが出てきます。「他人の不幸は蜜の味」なんて言いますが、企業の不祥事に関する適時開示は毎回かなり読み応えがあったりします。

今回紹介するのも、ある上場企業に起きた、企業の存続を揺るがしかねない事件、とんだポンコツ不祥事についての適時開示です。

事案の概要

オウケイウェイヴという会社をご存知でしょうか。私たちにも身近な事業で言えば、Yahoo知恵袋みたいなQ&Aサイトを運用している会社です。名古屋証券取引所(名証)ネクスト市場に上場している、ちゃんとした(?)会社です。

そのちゃんとした会社・オウケイウェイヴ(以下「OW社」)が、「ポンジ・スキーム」と呼ばれる投資詐欺に引っかかって、50億円を騙し取られたという事案です。

ちなみにOW社は、この事案について、2022年6月10日と2022年9月20日の2回にわたって調査報告書を公表しています。1回目は旧経営陣が公表したもの、2回目は8月25日の臨時株主総会で発足した新経営陣が公表したものです。

(ちなみにOW社は2023年1月20日にも別件で調査報告書を公表しています。新経営陣による徹底的な膿出しには皮肉ではなく感心します。)

1回目の報告書は50ページ弱でしたが、2回目の報告書は200ページ超と、気合いの入り方が違います。実際、2回目の報告書のほうが広範かつ詳細に事案を分析しています。

しかし、状況が定まらない、混乱と混沌の中から生まれた1回目の報告書のほうが、読み物としての面白さでは圧倒的に勝ります。そのため、2回目の報告書の内容を踏まえつつ、あくまで1回目の報告書を主軸に据えて書いていきます。

2022年6月10日報告書:http://www.daisanshaiinkai.com/cms/wp-content/uploads/2022/05/220610_chousa3808.pdf

2022年9月20日報告書:http://www.daisanshaiinkai.com/cms/wp-content/uploads/2022/09/220920_daisansha3808.pdf

(※参考・2023年1月20日報告書):http://www.daisanshaiinkai.com/cms/wp-content/uploads/2022/10/230120_chousa3808.pdf

ポンジ・スキームとは

「ポンジ・スキーム」とは、投資詐欺の一種です。この手法を編み出したアメリカのビジネスマン(詐欺師とも呼ばれます)、チャールズ・ポンジさんに由来する詐欺のスキームです。

ポンジ・スキームの仕組みは極々簡単です。例えば、年利12%で運用・毎月配当を確約して、投資家から10億円を預かります。

ポンジ・スキームでは、資金を運用することはほぼありません。よって、資金が増えることもありません。さて、単純計算で毎月1,000万円の配当が発生しますが、この支払いはどうするのでしょうか。

毎月の配当は、投資家から預かった10億円の中から支払います。当初の約束どおり、年利12%で1年間配当を続けたとしても、まだ8億8,000万円残っているので何も問題ありません。

配当を受け取った投資家は、単にタコ足食いをしているだけとも知らず、「ハイパフォーマンスで運用されている」と信じることになります。こうして、実際は何もしていないにもかかわらず「年利12%、破格の運用実績を持つファンド」が誕生してしまうわけです。

配当を受け取った投資家が、さらに別の投資家にこのファンドを紹介するような形で、詐欺の被害はどんどん拡がっていきます。

ポンジ・スキームが最終的にどうなるのかと言うと、ある程度資金を集めたところで配当を止めて、その後は破産ということになります。大体の場合、資金は何処かへ(何処へでしょうね)消えてしまいます。

オウケイウェイヴの財務状態

次に、今回の被害者であるOW社について検討します。当社のビジネスは、元々のQ&Aサイトから始まりました。その後は企業内のコミュニケーションやナレッジマネジメントなど、B2Bのソリューション事業を展開し、これが大きな収益源となりました。ルーツとなる事業から派生してビジネスを展開していく、素晴らしいことです。

反面、財務状態はパッとしません。過去にはブロックチェーン関連企業などをM&Aすることで業容の拡大を狙いましたが、成果は芳しくなく、財務体質を悪化させていたようです。

OW社の決算から、主要な指標を抜粋します。

〇'20/6月期決算

売上:4,795百万円(連結)

当期純利益:▲2,981百万円(連結)

自己資本比率:4.1%(単体)

17.7%(連結)

'20/6月期の有価証券報告書では、まず営業段階から赤字です。その上、有価証券評価損・関係会社株式評価損を2,500百万円計上しています。これは失敗したM&Aを損切りしたことによるものでしょう。

自己資本比率を見ると、OW社の本体から関連会社へと資金が流れていることが分かります。子会社という苗に一生懸命水をやっていたようですが、残念ながら実りは得られなかったようです。

〇'21/6月期決算

売上:2,196百万円

当期純利益:3,943百万円

自己資本比率:60.0%(連結)

58.7%(単体)

さて'21/6月期の決算ですが、前期とは大きく様変わりしています。売上が半減したにもかかわらず、多額の利益を計上し、財務基盤はガッチリ安定しました。どうしてこんなことになるのでしょうか。

理由は実にシンプルです。OW社は当期に「ソリューション事業」を売却しました。その分の売上が抜けて、代わりに事業売却益が入ったのです。当期にはその他の事業も売却整理しており、期末の現預金残高は9,159百万円と、一気にキャッシュリッチな会社になりました。

'21/6月期からの問題点

会社の将来性に暗雲が

キャッシュリッチになったのはいいことなのですが、いくつか問題点が出てきます。

第一に、会社の核となる事業を売却してしまったことです。'20/6月期から'21/6月期にかけての売上の推移を見ると分かるように、OW社の売上全体の4割程度をソリューション事業が占めていました。また、OW社の事業ポートフォリオの中でも、ソリューション事業はワリとマシというか……まだ成長が見込める分野でもありました。

有望だったソリューション事業を売り払ってしまったことで、残る事業分野(最近流行りのブロックチェーンとか……)で企業活動を継続しなければならなくなりました。いくらキャッシュが90億あるといっても、継続的に利益を生み出していくことができる体質とは言えず、かなり心許ない部分があります。

危惧される「ハコ企業」化

もう一つ大きな問題があります。買収です。OW社は名証に上場していますが、'21/6月時点での時価総額はいまいちパッとせず20億円程度でした。ところが今期の事業売却で財務状態は良くなって、'21/6月期の純資産は57億円。時価総額と純資産を比べると、買収する側からすればかなりお買い得であると言えます。

ソリューション事業を売却したことで、企業としての先行きが極めて不透明になりました。投資先として見ると、個人投資家の投資対象としてはまったく魅力的ではない、いわゆる「クソ株」に片足を突っ込んでいるような状態です。

とはいえ、純資産が57億円、キャッシュを90億円持っている会社が、理屈の上では20億円くらいで買えるわけです。極端な話ですが、OW社を買収してキャッシュを全額引っ張るだけで、20億円が90億円に化ける、70億円儲かるわけです。

さらにOW社は上場していますから、経営権を握って前向きなリリースや強気の業績予想を打って株価を吊り上げれば、20億円で買ったOW社の株を、その何倍もの値段で売り抜けることもできます(こういう使われ方をする上場企業のことを「ハコ企業」と呼びます)(ここ数年ですと、五洋インテックス社とかテラ社とかが熱かったですね)。

要するに、多額のキャッシュを抱えたままボーッとしていると、悪い人たちに目をつけられて、会社が食い物にされるおそれがあるわけです。OW社の経営陣も乗っ取り買収を危惧しており(6月10日調査報告書29-30ページ)、90億円の投資先を探す必要がありました。そこへ怪しげな投資会社が現れ、事態はあらぬ方向へと進んでいきます。

謎の投資会社と消える資金

2021年の3月頃、コロナ禍の中で桜が蕾をつけ始める頃、このままでは会社がキャッシュリッチになってしまう……という、贅沢かつ深刻な悩みを抱えたOW社の社長Aさんは、「昔お世話になったことのある」会社社長のSさんから「Raging Bull合同会社(報告書内「Z社」、代表社員Rさん)」という資産運用会社を紹介されました。

Z社の資本金は20万円、この時点でうーんという感じです。さらに、ファンドとして投資家から資金を募ってるのに金融庁に登録されてなかったり、過去の運用実績を調べてもまったく不明だったり、素人から見ても大変不審な会社です。

Z社がOW社に説明した投資スキームは、「ロックアップ中(IPO直後で売却制限がかかっている状態)の株式を1/3の値段で入手して相対取引で運用する」というものらしいのですが、これも全体的に、意味不明ですね。

さてOW社は早速この投資案件の是非について検討を始めるわけですが、社内の法務から「投資契約として適切な形を全くなしておらず、問題点しか目につきません。(6月10日32ページ)」という指摘がなされ、「法務部としては本件取引を開始することを到底受け入れることができない。(9月20日27ページ)」とすら言われてしまいます。当然の感覚です。

監査役からも「(投資スキームに)経済合理性がなく(6月10日12ページ)」という指摘がなされました。これも当然の感覚です。

しかしながら、取締役Bさんは「ここで契約締結できなかった場合の損失について責任が取れるのか。(6月10日32ページ)」と法務を説き伏せ、監査役の異議も空しく、本投資案件は取締役会で無事に承認されてしまいました。報告書を読む限り、AさんBさんはこの案件にさぞかし期するものがあったようですが、これは異常な感覚だと思います。

OW社は、2021年4月6日の取締役会で3.4億円の運用を委託することを可決します。ちなみにこの取締役会の席上でも、他の取締役からは「賛成できない」、監査役からは「(自分を)責任限定契約にしてほしい」「少額から始めてみてはどうか」といった意見が出されましたが、走り出した心もう止まりません。

そんなこんなでOW社は2021年4月7日付でZ社と委任契約(6月30日決済予定)を結び、3.4億円を預託しました。法務の方は、その後も取締役Bさんに対して取引実態の確認を要請し、Z社から届いた取引報告書を見るなり「資金が不正に利用されている可能性があるので、至急回収を行ってほしい(9月20日報告書36ページ)」とまで言っています。これぞ法務、気骨の人です。

いろいろありましたが、6月30日、OW社は無事にZ社から4.9億円の入金を受けました。そしてZ社のRさんから「次は10億どうですか?」という提案を受けます。

それを受け、OW社取締役会は取締役会で追加の投資を決定します。時期と金額は以下の通りです。

  • 同年7月1日に7月1日付10億円
  • 7月14日に8月2日付8億円
  • 8月24日に8月25日付5億円
  • 9月8日に9月10日付7億円
  • (以上はいずれも9月30日決済予定)

そして9月30日、Z社から、以上4回の投資に対応するものとして、35.3億円の入金を受けます。

OW取締役会は、更に追加で以下の投資を決定します。

  • 9月29日に10月1日付36.8億円(30億円+運用益とされるもの6.8億円)
  • 10月13日に10月18日付5億円
  • 11月19日に11月19日付5億円
  • (以上はいずれも12月30日決済予定)

12月27日、Z社のRさんからOW社のBさん宛に「証券会社の都合で10月13日と11月19日の分(合計で約10億円)が期日である12月30日までに払えない」という旨の連絡があったものの、12月30日には、Z社から、以上3回の投資に対応するものとして、39.5億円の入金を受け、同日の取締役会で以下の追加投資を決定します。

  • 12月30日に1月4日付39.5億円
  • 翌2022年1月19日に2月1日付5億円
  • (以上はいずれも3月31日決済予定)

未収になっていた10億円も1月中には回収できてめでたしめでたし……かと思いきや、そうは問屋が卸しませんでした。2022年2月9日に行われた会計監査人のレビューにおいて、「1月中に回収した10億円は1月4日に預託した39.5億円から返済されているのではないか?」という、至極真っ当な指摘がなされたのです。さすが企業会計のプロです。

3月24日、Bさんは、Z社のRさんから「3月31日に予定している49.3億円の支払いについて、4月18日以降、分割にしてほしい」という依頼を受けます。支払い不能のサイン、ポンジ・スキームの終わりの始まりです。

4月11日、BさんはZ社代理人の弁護士さんから、Z社の法的整理を受任した旨の連絡を受け、物語は唐突にエンディングを迎えます。

Bさんから連絡を受けたAさんは、翌12日に社長室長さんと面談し、逼迫し切った事態を伝えます。報告書を読む限り、この投資は取締役会のみで進められていたもののようで、取締役会の外に情報が出るのはこの日が初めてだったのではないでしょうか。この時この場で初めてこの話を聞いたであろう社長室長さんの心中を慮ると、気が狂いそうになりますね。

以後OW社の中でどのようなやり取りがあったのかは分かりませんが、4月19日に債権が回収不能になった旨を開示し、また同日に従業員に向けた説明を行うことになりました。開示のXデイ前日である4月18日に、社長室長さんから取締役AさんBさんに向けて送られた「明日、全社会議、しっかりお願いします。経営陣への信頼はもうどこにも全くありませんが、説明責任はかなり続きますから。(9月20日報告書166ページ注釈)」というメールは、ガバナンスが崩壊した企業の末路を雄弁に物語っていると思います。

また、会計監査人からは何度も何度も「資金循環取引(要はポンジ・スキーム)ではないのか」と質問されていたにもかかわらず、OW社はロクな対応をとっていませんでした。事ここに至り、会計監査人は’22/6月期の決算を待たず、2022年4月28日付で辞任してしまいます。それはそうでしょうね。

OW社は、ポンジ・スキームという古典的な手法に引っ掛かった結果、4,933百万円という多額の回収不能債権を作り、’21/6月期には9,159百万円あった現預金も’22/6月期には406百万円まで目減りしてしまいました。また主要事業を手放した結果、営業損益の段階どころか粗利の段階から赤字と、上場企業とはとてもとても思えない末路を迎えることになりました。

本事案の問題点

信用調査の不備

まず、投資先であるZ社について考えてみましょう。投資ファンドの資本金が少ないことはよくあることで、資本金100円のファンドも見たことがあります。Z社の資本金20万円というのも、それ自体は大しておかしな話ではありません。しかし資本金が薄いということは、そこからは資産の裏付けが取れない(=本当に資産運用をしているのか分からない)ことを意味します。つまり、別途資産運用の実態に関する調査が必要になるわけです。

この点、OW社の取締役BさんがZ社に赴き、α証券にあるZ社名義の口座に200億円以上の残高があることを確認したとされています。ただ、これだけでは調査したとは言えません。α証券は大手オンライン証券らしいので、パソコンで取引画面でも見せられたのかもしれませんが、そんなものいくらでも偽装できます。

いくら手元に現金が90億円あるとはいえ、OW社の資産から言えば数億~数十億円の投資はかなり大規模なものです。本来であれば、十分に時間をかけて、外部の機関なども使ってZ社の実態や投資の妥当性について調査・検討すべきでした。

それをOW社は、2021年3月に投資話を聞いてから1ヶ月程度、同年4月には取締役会で投資を決議しています。いくら早急に投資先を探す必要があったとはいえ、あまりにも拙速に過ぎます。

リーガルチェックの機能不全

リーガルチェックの段階で、法務社員から「Z社は金融庁への登録・届出がなされていない」旨が指摘されていましたが、黙殺されています。

また、本件の委託契約書についても、法務社員から「問題しかない」と指摘があったにもかかわらず、これも黙殺されています。

また監査役からは、経済合理性の無さに加えて会計上の問題点も呈されていたにも関わらず、これもスルーされています。

このように、法務社員や監査役など社内のリーガルチェックはほぼ機能不全だったように見えます。

一方でBさんサイドでも本件について顧問弁護士に相談しており、「Bは顧問弁護士(V法律事務所・P弁護士) に契約書の記載内容のチェックを依頼したところ、法的問題点はないとの説明を受けた(6月10日13ページ)」と、一応はリーガルチェックを行っていたようです。とはいえ顧問弁護士からBさんへのコメントを糺すと「契約書につきまして、改めて読み直し てみましたが、契約書本体で特におかしなところは見当たりませんでしたので(先方のやっていることの正当性や適法性については不明ですが)、お知らせ申し上げます。(9月20日報告書26ページ)」というものであったそうで、やはりまともに機能していなかったという感が否めません。

注意力の不足

ポンジ・スキームは古典的な詐欺ですが、現代でも根強い人気を誇っています。本場アメリカでは、2008年に、バーナード・マドフさんという人がポンジ・スキームによる詐欺で逮捕され、禁錮150年の判決を受けました(マドフさんは金融の本場・ウォール街で50年以上の期間にわたってポンジ・スキームをやっており、被害総額は6兆円に上るらしいので、スケールが違いますが)。

さてポンジ・スキームですが、傍目から見れば多少の注意を払えばおかしいと気づくはずです。本事案の「ロックアップ中の株式を時価の1/3で入手する」というスキーム自体、監査役の方が仰ったとおり経済合理性があるとは到底言えない、要するにおかしな話です。普通に考えればおかしな話だと分かります。

素人の投資家がこういった「おかしな美味い話」に騙されるのは仕方がない部分もあります。ただAさんやBさんは素人投資家ではなく、いやしくも上場企業OW社の取締役です。上場企業は株主から出資されたお金で経営されているわけで、どのように経営するのか、その結果どうなったかについては株主に対して責任を負っていますから、素人同様の注意力で事にあたられては困るわけです。

実際に企業を経営するにあたって、取締役は「善管注意義務」というものを負っています。「善良な管理者の注意義務」の略で、少々分かりにくい概念ではありますが、要するに法律や倫理、商取引の一般常識などに基づき、日常的に求められるレベルよりもしっかり気をつけて経営しろよということです。

本事案における取締役の行いが善管注意義務違反に当たるかどうかは分かりません。調査報告書でも「取締役としての善管注意義務に違反するものではないと考えられる。(6月10日報告書31ページ)」と小括されています(ただし、委員会内でも評価は分かれています)。

ただ、やはりかなりウッカリし過ぎと言うかマヌケと言うか、著しく注意力を欠いているのではないかという印象が強いです。また、結果的にOW社の資産を大きく毀損しています。調査委員会による評価によらず、また今後の追加調査の結果によっては、OW社の取締役が株主から何らかの責任を問われる可能性はあると思います。

既に「ハコ企業化」していた?

資金流出役としての社外取締役Cさん

本事案には、さらに致命的な問題点があります。それは、OW社の社外取締役であるCさんが、OW社がZ社と取引を始める以前から個人的にZ社に投資をしていたこと、Z社に顧客を紹介する業務についてZ社から委託を受けていたこと、さらにそれをOW社には秘匿したまま本件投資の議決に参加していたことです。

Cさんの行為については、会社法における忠実義務違反や利益相反取引など問題点は山積みですが、私は会社法には疎いのでこの点はあまり深堀りはしません。ただ、CさんがOW社の取締役としての地位を利用して、OW社の資金を社外に流出させたのではないかと邪推する余地はあります(他メディアでも散々言われていることですし、今更という感じですが)。

OW社とZ社が取引を始めるにあたって、Cさんがどの程度の強さで関与したのかは判断できません。ただOW社がZ社への投資を始めるのにCさんが噛んでいるようですし、またCさんはZ社への投資に関する取締役会の決議にも加わっています。

さて、「ハコ企業」については先に述べましたが、反市場・反社会的な方々が「ハコ」に手をつける時の作法は、買収だけではありません。例えば社外取締役やコンサルタントという形で経営に参与して、そこを入口(というか出口?)として、「社外への投資」という形で会社から金を抜くケースもあります。

OW社の場合も、社外取締役としてCさんが、コンサルタントとしてSさんがいました。SさんはどうもZ社の顧問も務めていたそうで、あーねという感じです。

余談ですが、Sさんは2022年9月20日報告書、さらに別の事案である2023年1月20日報告書にも登場します。OW社にとっては、Sさんが諸悪の根源であったと言ってもいいかもしれません。

本事案は、Cさん、そしてCさんに連なるSさんなどの人脈によって、おそらくある程度組織的に行われた経済事犯でしょう。とはいえ、こういう事案はカッチリ組織化されているわけではありません。なんか「そういう筋」の方々がいまして(例えば先述の五洋インテ社とテラ社、両方の事案に登場する業界の有名人もいます)、今回のOW社のような会社が市場にいると、どこからともなく集まって結託し、反市場勢力となって金を抜いていくんですね。

ですから、Cさんがすべての犯人というわけではないでしょう。しかし、反市さんたちがOW社から金を抜く上で、Cさんが重要な役割を担っていたのは間違いないと思います。

適時開示による株価の釣り上げ

OW社は、Z社からの運用益について、2022年9月29日、同年12月30日、2022年3月30日の計3回にわたって適時開示を行っています。内容はいずれも特別利益の計上と業績予想の上方修正についてです。

さてOW社の株価ですが、月の終値で比較すると、2021年4月には296円であったのが、同年10月には473円まで上がり、その後4月までは400円弱の水準で推移していました。ちなみにZ社からの取立不能を発表した2022年4月には、110円まで下落しました……。

オウケイウェイブの株価推移:https://moneyworld.jp/stock/3808/chart

穿った見方をすれば、実態の無い運用益を開示することで株価を釣り上げたとも取れます。これも「ハコ企業」の典型的なやり方です(2回目、3回目のリリースは株価にほとんど効いてなさそうなのが本当に悲しいですが……)。

有り余る現金、行き詰まる経営、社外への不可思議な資金流出、釣り上げられる株価。こうした点を総合すると、OW社はかなり早い段階で、おそらくはソリューション事業の売却が検討されているあたりから、ほとんど「ハコ企業」と化していたのではないかと思います。

どうしてこうなってしまったのか

原因はいくつか挙げられますし、それぞれはそれほど複雑なものではないと思います。ただ単純な要素でも、いくつも重なるとこういうわけの分からないことになるのでしょう。

経営方針の迷走

OW社は、2017年頃からフィンテック事業に参入するため、積極的な投資やM&Aを行うようになりました。そのために1,833百万円のMSCB(後述)を発行して資金を調達しています。

しかし、フィンテック事業の担当者が辞めてしまったり、暗号通貨関連の良くないニュースが続いたりして、2020年にはフィンテック事業からの撤退を余儀なくされます。フィンテック関連の事業を売却するも財務状況は改善せず、やむなくソリューション事業も手放すことになりました。そして借金だけが残りました。

初めのほうにも書きましたが、ソリューション事業はOW社の柱であった事業です。それを売却してしまったのですから、早急に次の柱を見つけなければ企業の存続に関わる、そうした焦りが最も根源的な原因だと思います。

MSCB(転換社債)の償還

MSCBとは「Moving Strike Convertible Bond」の略です。日本語だと「転換価格修正条項付転換社債」と言います。英語でも日本語でもよく分かりませんね。

雑に説明します。まずCB(転換社債)の部分ですが、これはその名の通り「株式に転換できる社債」です。一般的には転換価格が決められています。投資家サイドからすると、株価が転換価格を上回ればCBを株式に転換して差益を得られ、株価が転換価格を下回れば社債として保有して償還を待つことができる、とても優しい金融商品です。

次にMS(転換価格修正条項)の部分ですが、これもその名の通りCBの転換価格を修正する条項です。一般的には下方修正する条項が多いようです。簡単に言えば、株価が下がったら転換価格も下げて、投資家にとっては有利な条件で株式に転換させてあげるよという仕組みです。

さてここで言う「投資家」とは、専らMSCBを引き受ける証券会社や機関投資家であり、一般的な個人投資家にとっては本当にカスみたいな仕組みです。しかし、条件が投資家にとって有利なぶん、買い手を見つけやすいため、信用力は低いけど多額の投資を必要とする成長企業などにとっては魅力的な資金調達手段であると言えます(個人的にはMSCBとかMSワラントとかを使う企業には投資したくないですが)。

当社もMSCBで資金調達をしていましたが、株価がまったく奮わず、株式への転換も全然進んでいませんでした。MSCBは株式に転換されれば資本になりますが、転換されない限りは単なる社債(負債)ですので、期限が来たら償還しなければなりません。そのため、ある程度のキャッシュが必要でした。

いや、キャッシュなら沢山(90億円)あるじゃんと思いますよね。しかし、主力事業を売却して当面は赤字が続くことが必定ですし、次の柱となる事業に投資する資金も必要になります。こうなると、金なんかいくらあっても足りません。

また、OW社が売ったMSCBの中には「転換価格修正日に株価が一定以下だったら強制償還」みたいな条件がついたものもありました。つまりOW社は、MSCB償還のプレッシャーを避けるために株価を上げることが喫緊の課題でありながら、株価に悪影響を及ぼすような費用先行の新規投資は避けなければならないというジレンマを抱えていたわけです(9月20日報告書22-23ページ)。

投資のプレッシャー

そのためOW社としては、費用先行ではない、かつ短期的に株価にポジティブなインパクトを与えられる投資先を探していたのだと思います。となると、時間と金をかけて新規事業を立ち上げるのは選択肢から外れます。

まず思いつくのはM&Aでしょうか。実際、OW社は同時期にCVC(Corporate Venture Capital)を企画しています。一般的にCVCは本業とのシナジーを期待して投資を行うところ、本業がアホになってるのにCVCも何もあるかと思うのですが、OW社はCVCとして20億円の投資をして、そして派手にコケました(これが2023年1月20日報告書に繋がります)。

そして、次に思いつくのは金融投資でしょう。報告書にある、Z社への投資に反対していた役員の言に「「A社(注・ソリューション事業売却後のOW社のこと)で今後行なう投資事業の実績づくり」とのことですが、現実的には事業実績と言うにはあまりにも付焼刃的と思っています。(9月20日報告書28ページ)」とありましたが、どうも取締役の中でもAさんBさんあたりはZ社への投資を事業実績とみなしていたフシがあります。もしかしたら金融を本業の一つに据えるつもりだったのかもしれません。

金融業でもないのに金融投資に熱を上げるのはその時点でちょっと……という気がしますが、人間追い詰められるとバカになることもありますので、何とも言えません。

山師たち

さて、上の3点からは経営陣、特に有力な取締役であったAさんとBさんが追い詰められていたことが窺えます。AさんとBさんはOW社の創業メンバーですので、会社の行く末を想う気持ちは人一倍強かったのかもしれません。

そういう強い想いはあれど、AさんとBさんには為す術がありません。そこに現れるのがCさんとSさんです。溺れる者は藁をも掴む。彼らは溺れるAさんとBさんに向かって、投資案件という藁、一縷の希望を垂らしたわけです。それを掴むと溺れ死ぬことを知りながら。

というかいろいろ調べますと、どうも当社がフィンテック事業に手を突っ込んだあたりから既に物語は始まっており、そこからCさんSさんによって、3~4年がかりでしっかりカタにハメられてしまったというような感じもします。

CさんSさんについては他のサイトで散々書かれていますが、一言で申し上げるなら「山師」でしょうか。AさんBさんとしては、CさんSさんに対して、OW社の事業を発展させるために一役買ってもらいたいという希望を持っていたのかもしれません。が、当のCさんSさんはと言うと、OW社という金脈、そこを掘り尽くすことが目的だったように感じます。

もう一つ言うならば、「よく分からないけど儲かりそうだから」フィンテックなど始めるべきではありません。残念ながら、現在のフィンテックは山師の商売です。技術のことが分からないのに技術に飛びついてはいけない。そういうことを、OW社は身をもって教えてくれました(では技術が分かっていればいいのかと言えば、そうでもないということは、テラ社が教えてくれたのですが……)。

OW社に希望は無いのか

さて、上場までしながらすっかりボロボロになったOW社、もはやこれまで、後は死を待つのみなのでしょうか。もしかしたらそんなことはないかもしれません。

2022年8月25日に行われた臨時株主総会において、取締役であったAさんBさんが解任され、新たに杉浦元さんを代表取締役とする新経営陣が発足しました。

旧経営陣は散々やらかしてきましたので、交代自体がいいニュースです。加えて、「杉浦さんが経営を担うこと」も、OW社にとってはいいニュースであると思います。

杉浦元さんという人はどういう人なのか。ざっくりとした略歴ですが、ベンチャー・キャピタルの出身で、企業の上場支援をしてきた人です。OW社がIPO(新規上場)する時には、杉浦さんも参画されていました。その時の記事は、読んでいて胸が熱くなります。

株式会社エリオス 支援事例紹介・株式会社オウケイウェイブ:http://www.elios.co.jp/case/vol2.html

杉浦さんとしては、かつては志をともにしたAさんやBさんが、創業時の理想を忘れてしまったかのように迷走する姿を見て、忸怩たる思いだったのかもしれません。杉浦さんは、自身も株主の立場から、他の投資家と対話を重ねて、株主総会で正しい手続きによって代表取締役に就任しました(ちなみに、臨時株主総会の結果と新役員選任がリリースされたのは8月25日ですが、杉浦さんはこのリリースに新たに代表取締役となったご自身の名前を記載し忘れて、翌26日に訂正のリリースを出しています。少しチャーミングさを感じます)。

率直に言えば、杉浦さんにとってはOW社に関与するメリットは何も無いと思います。どころか、反市場勢力に散々食い物にされたOW社に関わることは、杉浦さんの経歴に大きな傷を残すおそれもあります。それでも、代表取締役という責任ある立場でOW社に参画する杉浦さんの理念や熱意には敬服しますし、これからの展開に希望を見出すことができると思います。

先行きはかなり厳しいと思いますが、OW社の再生を祈るばかりです。

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