以前の記事で、障害者手帳について大まかに説明しました。今回は、なぜ障害者手帳を取得するのか、障害者にとって障害者手帳はどのような意義を持つのかについて、主に福祉サービスの側面に注目して書こうと思います。
なお、この記事における「障害者」とは主に精神障害者のことを、「障害者手帳」とは精神障害者保健福祉手帳のことを指します。何故ならこの記事を書いている私がそうだからであり、この記事も私の実体験に基づいて書いています。
障害者手帳ってなんのためにあるんですか?
障害者手帳とはなんなのか、詳しいことは前回の記事を参照してもらうといいのですが、シンプルに言うと「障害者であることの公的な証明書」です。
障害者手帳を取得することで、「公的に証明された障害者」であることになります。逆に言えば、障害者手帳を持っていない限り、「公的に証明された障害者」にはあたりません。
では何故、「障害者であることの公的な証明」が必要となるのでしょうか。
障害者に対する公的な福祉制度・サービスについては、ほぼすべてがなんらかの法令に基づいて実施されています。私たち精神障害者に対する福祉サービスについても、「障害者基本法」や「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(精神保健福祉法)」や「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(障害総合支援法)」といった法律、各自治体の条例などを根拠として実施されています。これらの法令や条例の中では、誰が、どのような人に対して、どのような目的で、どのようなサービスを提供するのかについて定められています。
日本は福祉が充実した国で、障害者を支援する制度は多数用意されています。しかし、障害者に対する福祉制度は、あくまでも「障害者を支援する」ためのものです。対象はあくまでも「障害者」であり、すべての人に対して開かれているものではありません。障害者を支援する福祉制度を利用するためには、前提として利用者が「(その制度の対象として規定されている)障害者」である必要があります。福祉サービスの場においては、「障害者」と「それ以外」とは区別されているわけです。
そこで、「障害者」と「それ以外」を区別するために、障害者手帳が用いられます。障害者手帳を持っていれば障害者、持っていなければ「それ以外」と区別されるわけです。実際に様々な福祉制度を利用していて感じることですが、「利用時に手帳の提示が必要」「申請時に障害者手帳の写しが必要」など、障害者手帳を持っていること前提のサービスは、かなり多くあります。こういう区別の仕方は如何なもんなんですかね……と思う反面、確かに非常に分かりやすくはあります。
障害者手帳を取得する最も大きな理由として、障害者のために用意された、様々な福祉サービスを利用することが挙げられます。障害者手帳は、障害者福祉制度を利用するためのパスポートみたいなもので、障害者手帳を持っていないと利用できない福祉サービスはたくさんあります。
障害者手帳を取得することで利用できる福祉制度
障害者手帳(精神障害者保健福祉手帳)は、精神保健福祉法という法律に基づいて交付されています。よって、障害者手帳を取得することで、精神保健福祉法はじめ、精神障害者を支援するための法律を根拠に実施されている、様々な福祉サービスが利用することができるようになります。
どんなサービスが利用できるのか、これはいろいろありますが、いくつかかいつまんで紹介します。詳細はまた別の記事に書きます。
失業給付
障害者手帳を取得している場合、失業給付を受ける際の要件が緩和されるほか、受給することができる日数も長くなります。
ハローワーク「よくあるご質問(雇用保険について)」
https://www.hellowork.mhlw.go.jp/help/question05.html
失業給付についての詳細は、こちらの記事に詳しく書いています。
所得控除
障害者手帳を取得している場合、手帳の等級に応じて所得控除を受けることができます。障害の程度に応じて、課税所得から一定額が控除されますので、所得税・住民税の負担を減らすことができます。
国税庁「障害者と税」
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/koho/kurashi/html/03_2.htm
東京都主税事務所「個人住民税」
https://www.tax.metro.tokyo.lg.jp/kazei/kojin_ju.html
会社勤めをしている人が障害者控除を使う場合、勤務先に申告をする、または個別に確定申告をする必要がありますが、いずれにせよ会社にはバレますので、「障害のことを会社に言いたくない」という人(私もそうです)にとってはイマイチ使いにくい制度ではあります。少し面倒にはなりますが、還付申告という方法を使えば、会社にバレずに控除枠を使うことも可能です。
施設利用料金の割引など
障害者手帳を持っていると、美術館や博物館、動物園などの施設利用料金が割引ないし無料になります。「障害者本人と付き添い1名まで無料」としている施設が多いですので、一人で行く時だけでなく、デートの時などにも使うことができます(これはジョークではなく、非常に便利です)。
例:上野動物園「障害のある方、ご高齢の方へ」
https://www.tokyo-zoo.net/zoo/ueno/accessibility.html
また、タクシーの運賃が1割引になります。
東京都中央区「タクシー料金の割引」
https://www.city.chuo.lg.jp/kenko/sinsin/kaigo/kotukikan/takusir.html
身体障害者(身体障害者手帳)・知的障害者(療育手帳)の場合、JRなどで鉄道運賃の割引が受けられるのですが、精神障害者(精神障害者保健福祉手帳)の場合、鉄道運賃の割引を受けられる事業者は極々限られています。
他にも、以下の厚生労働省ウェブサイトで紹介されている制度などを利用することができます。
厚生労働省「精神障害者福祉手帳」
https://www.mhlw.go.jp/kokoro/support/certificate.html
福祉サービスを利用するなら障害者手帳は必須
以上の福祉サービスは、すべて「精神障害者」を対象にしたサービスです。そして、福祉サービスの対象である精神障害者であるか否かは、障害者手帳(精神障害者保健福祉手帳)を取得しているか否かによって区別されます。この他にも、障害者手帳を取得することで受けられる福祉サービスはたくさんあります。
逆に言えば、障害者手帳を取得していないと、これらの福祉サービスを利用することは難しくなります。先にも少し書いたように、福祉サービスの利用申請時に、障害者手帳の原本の提示や、写しの提出を求められることも多いからです。そもそも障害者手帳を取得していなければ、原本の提示も写しの提出もどうにもなりません。
各種の福祉制度を利用できるようになることは、障害者手帳を取得する非常に大きなメリットの一つです。デメリットが無いわけではないのですが、ほとんど無いようなものなので、うつ病や双極性障害などになって、手帳を取得できそうになったらとりあえず取っておく、というのも一つの考え方としてアリだと思います(障害者手帳を取得することのデメリットについては、こちらの記事で紹介しています)。