うつ病や双極性障害(躁うつ病)、発達障害や統合失調症などの精神疾患・精神障害を患っており、精神科に通院して治療を続けている人の中には、「勤務先には障害のことを隠して働いている」という人もいるかと思います。私も、双極性障害に罹患してからかれこれ10年以上、障害のことは隠して就労しています。
精神疾患・精神障害の場合、パッと見で明らかにバレることはそれほど多くはないため、隠そうと思えばいくらでも隠すことができます。昔から「クローズ就労」という言葉もありますし、障害を隠して働くことは、我々精神障害者にとっては伝統的な態度だと言ってもいいかもしれません。しかし、隠し事をしている時には、それがバレる不安がつきまといます。
精神疾患・精神障害を患うと、相当の期間にわたって通院・投薬治療を続けていかなければならないため、「会社にバレる」不安とは常に隣り合わせです。
この記事では、精神科通院が会社にバレることはあるのか、どういった場合にバレるのかについて書いていきます。この記事も私の実体験や限られた経験に限っての話ですので、そこは留意してください。
なぜ精神科通院を隠すのか?
そもそも、なぜ私たちは精神科通院を隠して働いているのでしょうか。人によって事情はそれぞれだと思いますが、よくある理由をいくつか紹介します
単に言いたくない
近年では、うつ病や発達障害などがメディアでフォーカスされることも増え、精神疾患・精神障害への認知はかなり進んだと思います。しかし、イメージは相変わらず悪いままで、精神障害者に対してはネガティブな印象を持っている人が多いでしょう。
精神科通院の事実について知られることは、イコール悪い印象を与える場合が多いため、なるべく隠したいと思うのは自然なことだと思います。
また、「精神障害者に悪いイメージを持っている」のは、精神疾患・精神障害の当事者自身も例外ではありません。単に「言いたくないから言わない」という当事者の方は、相当数いると思います。
人間関係への影響
精神疾患・精神障害についての認知は、間違いなく広まっていますし、当事者の数も増えています。昭和の時代と比べれば雲泥の差で、メンクリへ通院しながら働いている人など最早珍しくもなんともありません。
それでもやはり少数派であることには変わりなく、精神科通院をカミングアウトした場合、少なからず好奇の目を向けられることはありますし、会社での人間関係に影響を及ぼすこともあります。
それが暖かい気づかいならありがたいのですが、時には腫れ物に触るような扱いを受けたり、「めんどくさい人」「厄介な人」扱いされることもあります。
相手が家族や親しい友人であれば、好ましい支援を受けられる場合もあるかもしれません。しかし、上司や同僚とはあくまでビジネスの関係ですので、精神科通院について家族や親しい友人と同じように考えるのは危険です。
黙っていれば何の変化も起こりませんので、会社での人間関係の軋轢を避けるために、精神科通院を隠す人もいます。
仕事への影響
近年では、障害者などへの配慮が努力義務とされており、精神疾患・精神障害に対する社会の理解も一段と進んだと言えます。
しかし残念なことながら、精神疾患などを患い、それを会社側へ伝えた場合、自分にとって不利益な扱いを受けるおそれがあることも事実です。
例えば、会社側の「合理的な配慮」によって、負担の少ない部署や業務へ配置転換されるケースがあります。負担が軽減されれば、本人の状態が改善されることもあるため、これが一概に悪いことだとは思いません。
反面、本人は配置転換を望んでおらず、不本意な配慮となるケースがあるかもしれませんし、そもそも配置転換という選択肢を提示されることにストレスを感じる人もいるかもしれません。
精神科通院によって不利益を被る現状について、決して良しとするわけではありませんが、かと言って個人の独力で、現状を劇的に変えることは困難です。
精神科通院をカミングアウトすることのメリットとデメリットを比較衡量すると、精神科通院を隠して不利益を避けることが最良の選択肢となることは、十分ありえます。
結局バレるんですかバレないんですか?
結論ですが、精神科での治療を続けていることが会社にバレることは、基本的にはありません。ご安心ください。
バレる原因として最も心配されるのが、健康保険です。
会社の健康保険を使って精神科へ通院している場合、会社には健康保険の利用状況が届きますので、「何らか病院へ行ってるな」くらいは分かってしまうかもしれません。健康保険からバレるんじゃないかと不安に思う方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、通院歴や服薬の状況など、個人の健康に関する情報は、現代社会においては極めてセンシティブな情報であるとされています。
健康保険の利用情報については、会社とは別組織である健康保険組合によって極めて厳格に扱われているため、健康保険が原因で精神科通院が会社にバレることはありません。
自分の精神科通院と会社とを結びつけるものは健康保険だけですが、健康保険を経由してバレることはまずありえませんので、あとは自分が黙ってさえいれば、バレることはありません。
精神科通院がバレるケース
とはいえ隠し事は隠し事ですので絶対にバレないわけではなく、やはりバレてしまうケースはあります。
どうしたらバレてしまうのか、以下にいくつか紹介します。
バラしてしまった
隠し事をしていると、どうしても後ろめたい気持ちになります。隠し事は心の負担にもなりますし、ふと「吐き出してしまいたい」と思うのは当然のことです。秘密を打ち明けたい、知ってほしい、分かってほしいと思うこともあるでしょう。
精神科通院を打ち明ける相手が、十分信頼できる人であれば、何も問題はありません。しかし、信頼できない相手に対して不用意に話してしまうと、当然「バレた」状態になります。
私の場合、大して仲も良くない会社の先輩にポロッと精神科通院のことを話してしまった結果、一週間も経たないうちに大きな尾ヒレがついて職場中の噂になってしまい、大変な目に遭いました。黙っておけば良かったなと、今でもしみじみ思います。
当たり前のことですが、バラせばバレます。
精神科の病院に入っていくところを見られた
人の多い都市部ではあまり無いことかとは思いますが、人の少ない地方だと「たまたま精神科の病院に入っていくのを見られた」ということが起こりえます。「精神科の病院の駐車場にお前の車が停まっていたが……」みたいなこともありえます(実際ありました)。
「違いますよ」「気のせいですよ」と、いくらでもごまかしが効くことではありますが、一応留意しておくといいかもしれません。
インターネット・SNS
精神疾患・精神障害について、リアルで語り合ったり、思いの丈を吐き出したりすることは、中々難しいことだと思います。何故なら、精神障害の当事者は絶対数が少ないうえに、当事者であることを隠している当事者が多いため、語り合う相手・思いを吐き出せる相手が見つからないからです。
私は、双極性障害に罹患したとき、地元の実家に住んでいました。地元の市の人口は約10万人、双極性障害の有病率は1%ですので、理論上は市内に1,000人の双極性障害患者がいることになります。
しかし、地元にいる間には、双極性障害患者はおろか、精神疾患・精神障害の当事者とは一人とも知り合うことはありませんでした。今までの実体験として、精神障害当事者同士の交流というのは難しい部分が多いため、地元で他の当事者と知り合わなかったことは幸か不幸か際どいところですが、当時はとても孤独で寂しかったです。
そんな時に、インターネット・SNSと出会いました。当時の私は、故・アメーバピグとTwitter、二つのサービスを使って、ネットの向こうの当事者と交流を深めていました。
リアルでは「精神障害の当事者」など自分以外に見たことがなかったのですが、ネットの向こうにはウジャウジャいて、みんな思いのままに語り合い、思いを吐き出していました。そんな様子を見ていたら、私も自然と自分の気持ちを打ち明けることができるようになって、とても救われました。
とても救われたのですが、ワールドワイドにオープンなインターネットでやっていましたので、普通に知人に発見され、バレました。会社できるだけ身の上は明かさないようにしていたつもりだったのですが、塵も積もればなんとやら、断片的な情報から特定されてしまったようです。幸いなことに、バレたのが親しい知人だったので会社に伝わることはありませんでしたが、冷や汗をかきました。
インターネット・SNSは、精神障害の当事者にとって非常に有益なツールです。リアルの人間関係の中では言えないことも、バーチャルの世界でなら存分に打ち明けることができます。リアルで鬱積した心の澱をバーチャルで吐き出すこと、是々非々ではあるかもしれませんが、私は必要なことだと思います。
反面、やはり誰でも見れてしまうオープンな環境ではありますので、インターネットやSNSでメンタルケアをする際には、身バレするリスクを常に頭の中に入れておいてほしいと思います。
精神科通院を隠しながら生きていくこと
「精神科通院を隠す」ことについて、私は賛成でも反対でもありません。オープンにするかクローズにするかは個人の自由ですし、個人の事情に合わせて選択すれば良いと思っています。
一方で、「精神科通院を隠す」という選択肢が生まれてしまう現状は、精神障害の当事者として、やはり悲しいなあと思います。精神疾患・精神障害をオープンにしてものびのびと生きられる社会になってほしい、そう願っています。
精神疾患・精神障害への偏見を取り払う、当事者が生きやすい社会を実現しようと努めている人々のことは、本当に立派だと思います。こういう人々の熱意が、少しづつでも社会を良くしていくのだろうと思います。
反面、精神科通院を隠して生きている自分の力の無さ、現実に迎合してしまう弱さのことを恥じます。精神障害当事者のために活動する人々に対しても、心の中でエールを送りつつ、素知らぬ顔で生きていくことしかできません。
ただ、私と同じ苦しみを持つ人が少しでも生きやすくなることを願って、この記事を書きました。私と同じように、精神科通院を隠して生きていく人の不安や苦しみが、少しでも和らぐことを祈っています。