心療内科を上手く受診するコツ

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精神障害者福祉

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医者が話を聞いてくれない

私はかれこれ10年ほど心療内科に通院しています。心療内科を受診している人にありがちな悩みの1つに、「医者が話を聞いてくれない」というのがあります。

大体の場合、「最近はお変わりないですか?」から始まって、「特にありません」と答えると「じゃあいつものお薬を出しておきますね」で診察終了。診察時間は長くても5分くらいで、これではたしかに「医者が話を聞いてくれない」とお悩みになるのも無理はありません。

心療内科の医者はなぜ話を聞いてくれないのか

時間がない

医者が話を聞いてくれないのには理由があります。1つは、単に時間が無いということです。心療内科の待合室をご覧ください。常に何人もの患者が、自分の診察の順番を待っています。おっと、診察が終わらないうちに次の患者が……患者はこんなにたくさんいるのに、医者は1人だけ。どうやって診察を回しているのでしょうか。きっと何か秘密が……そうです、5分診療です。

最近は心療内科を受診するハードルが下がったおかげか、患者の数は激増しているようです。しかし街の心療内科の多くは医者1人で診察を回しているため、どこの病院もキャパオーバーになっていて、予約無しでは診察しない病院や、新規の患者はお断りの病院もあります。医者も朝からフル回転で患者を捌かないといけないので、1人あたりの診察時間はどうしても短くなってしまいます。

話をする場所ではない

日本の心療内科では、主に薬物療法が行われています。薬物療法とはその名のとおり、向精神薬を直接頭に効かせて、精神疾患や精神障害を治療する方法です。心療内科医は、患者の症状を診て適切な薬を処方する、薬物療法のプロです。心療内科とは要するに「薬を処方する場所」であり、「お話をする場所」ではないのです。

(誤解の無いよう念のため申し添えておきますが、「心療内科医は薬を出すしか能が無い」みたいなことを言いたいわけではなく、適切な薬を処方することこそが薬物療法のプロである心療内科医の本義であり、薬の処方以外のことをあれこれ期待するのは患者側の誤解である、という意味です。)

心療内科の医者は嫌いです!薬物療法以外の治療法は無いの?

薬物両方の他に、「お話をする」ことで精神疾患や精神障害を治療する、心理療法という方法があります。

薬物療法と心理療法は、野球とサッカーくらい違います。医者は薬物療法のプロですが、心理療法のプロではありません。心理療法の分野には、臨床心理士・公認心理師というプロがいます。

そのため、心療内科で心理療法を受けることができるわけではありません。「臨床心理士・公認心理師がいる心療内科」というのも、無くはないです。しかし、「無くはない」程度なので、近所で探すのは困難というか、ほぼ無理です。

残念ながら、今日の日本では心理療法はそれほど普及しておらず、心理療法を受けられる施設は多くありません。また、心理療法では健康保険が使えないことが多いため、受診料は高額になります。

心理療法の専門家制度が確立しているわけではない点も大きな問題です。臨床心理士・公認心理師以外にも、心理療法っぽいことをやっている人々、サイコロジスト、セラピスト、メンタリスト、その他の民間療法家はうじゃうじゃいますが、これらはすべて論外です。

あと、精神疾患や精神障害を治療する上で、薬物療法を避けて通ることは心の底からおすすめできません。なぜなら、薬物療法は効くからです。よって、精神疾患や精神障害をケアするためには、心療内科がベストな選択肢というか、他に選択肢は無いのが実情です。。

ドラマの心療内科医は患者の話をすごくよく聞いてたけど?

ドラマだからです。

心療内科を受診する際に意識すべきこと

時間を有効に使う

さて、心療内科を受診するにあたって、我々患者に与えられた時間はたったの5分です。5分という短い時間を、最大限有効に使わなければなりません。まず、とりとめの無い話をするのはNGです。あっという間に5分経ってしまいます。上司の悪口とか家族の愚痴とか、言いたいことがたくさんあるのは理解しますが、やめましょう。

また、上に「心療内科とは薬を処方する場所である」と書きました。つまり、薬に関すること以外の話をするのは時間の無駄です。不眠や抑うつ、躁状態や食欲不振などは、薬である程度は解決することができます。他方、恋愛の悩みとか職場のストレスとかは、薬では絶対に解決できません。薬で解決できそうなことについてだけ話しましょう。

医者とコミュニケーションを取る

繰り返しになりますが、心療内科医は薬物療法のプロです。薬物療法の目的とは、患者の状態や症状に合わせて適切な薬を処方して、症状の治療や緩和をすることです。医者は完全にこの目線ですから、患者もこの目線に立たないと話が通じません。

よって患者がやるべきことは、自分の状態について具体的に医者に伝えることです。悩み、苦しみ、恨み、辛み、言いたいことは様々あるでしょうが、なんにせよ医者に伝わらなければ意味がありませんし、医者に伝わるように話をしなければなりません。

「医者は冷たい!私の気持ちを理解してくれない!」とお怒りの方もいらっしゃることでしょう。一患者として、お気持ちは非常によく理解します。しかし、八百屋に来て「エルメスのバッグはどこ?なんで売ってないの?」と怒り出すアホはいませんよね?心療内科には心療内科のルールやプロトコルがあるわけですから、大人しくそれに従いましょう。

心療内科を受診するときのコツ

伝えたいこと・質問したいことをあらかじめまとめておく

何度も言いますが、診察時間は5分しかありません。この点は諦めましょう。5分で、現在の自分の状態や症状、困っていることなどを医師に伝えて、どうすればいいかを尋ねて、医師から回答を貰って、今後の処方などについて検討しなければならないのです。どうでしょう、かなり無理っぽい感じじゃないでしょうか。

何の準備もなく漫然と受診してしまうと、「最近はお変わりないですか?」「うーん……ないですね」「じゃあいつものお薬を出しておきますね」で終わってしまいます。そのため、まずは「最近はお変わりないですか?」に対するアンサーを用意しておく必要があります。

では「お変わり」があったとして、どのようにお変わりしたのか、それによってどういう困り事が出てきて、医者には何を聞きたいのか……当意即妙で受け答えができる方、それは結構なことです。でも実際はそうではない。あれこれ考えながら話をしているうちに5分経ってしまった、何を聞けばいいのか分からず緊張して黙り込んでしまった、そんな方のほうが多いでしょう。

そういう事態を防ぐために、以下のような事項をあらかじめメモか何かに書いてまとめておくことをオススメします。

  • 現在の自分の状態や症状
  • 前回の診察時から変化したこと
  • 今症状で困っていること
  • どういう状態になりたいか
  • 患者自身でできることはあるか
  • その他医者に伝えたいこと・聞きたいこと

あらかじめメモ書きしておけば、当日は「最近はお変わりないですか?」と聞かれたらメモの内容を読み上げるだけで済みます。「緊張して言葉が……」「そもそも人と話すのが苦手で……」という方は、メモをそのまま医者に手渡せばOKです。

自分の状態を記録する

「最近はお変わりないですか?」と聞かれて、本当に症状が安定していて、本当にお変わりがないのなら、それはなによりです。しかし実際には、気分の上下や睡眠リズムの乱れなど、大なり小なりお変わりがあるはずです。こうした変化は、自分の心身が発する警告のシグナルのようなもんです。たとえ小さな変化であっても、長期間放置すると累積してしまい、ある日ドカンとメンタルが崩壊することになります。

「現在の自分のメンタルは健康/不健康である」ということを、現在の状態だけ見て判断することはできません。たとえば、体重が120kgの人がいたとします。デブです。しかし、この人が「不健康なデブ」かどうかを「現在の体重が120kgである」という点だけで判断することはできません。この人の1年前の体重が120kgで、この1年間で体調にお変わりがなければ、それは不健康ではない、健康なデブです。しかし、この人の1年前の体重が60kgだったら、これは言うまでもなく非常に不健康なデブです。「メンタルが健康/不健康である」ということも、複数の時点の状態を比較して初めて分かるものです。そのために必要となるのが、記録です。

複数の時点の状態を、連続的に記録することで初めて、自分にとってどういう状態が健康で、逆にどういう状態が不健康なのか、現在の自分は健康か不健康かが分かるようになります。

記録のポイント

何を記録すればいいのか

薬物療法は、脳に直接薬を効かせる、生理的な治療法です。よって、薬物療法が上手くいっているかどうかについても、主に睡眠や食欲といった、生理的なシグナルを記録することになります。

睡眠

睡眠は、おそらく最も重要なシグナルです。私のように脳に問題がある人間は、とにかく睡眠リズムを乱しがちです。私のような人間にとって、早寝早起きは至上命題であり、究極の目標です。私は双極性障害という精神障害を抱えているのですが、躁状態の時は睡眠時間が露骨に短く、逆にうつ状態の時は露骨に長くなります。つまり、睡眠時間から「今の自分は躁/うつである」ということを判断できるわけです。

睡眠については、以下の4点について記録することをおすすめします。

  • 就寝時刻
  • 起床時刻
  • 睡眠時間
  • 睡眠の深さ

睡眠の計測方法はいろいろありますが、私がおすすめするのは「ポケモンスリープ(ポケスリ)」というスマホアプリです。

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どういう仕組みなのかは知りませんが、上に書いた4点をきちんと計測してくれます。寝る前にポケスリを起動すると、それ以降はスマホに触れない(触ると睡眠がキャンセルされて、ポケモンが育たない)のも良いポイントです。

食事

食欲も重要なシグナルです。私の場合、躁状態の時は大食に、うつ状態の時は少食になります。睡眠と同じように、食欲からも自分の精神状態を判断することができます。食事については、以下の4点について記録することをおすすめします。

  • 食事を摂った時刻
  • 何を食べたか
  • どれくらい食べたか
  • 食後に不快感や吐きはあったか、嘔吐したか

食事については、間食にも注意が必要です。チョコを1粒つまんだ程度ならいいのですが、1箱食べきってしまったとかだと、それはもう間食とは呼べませんので、食事として記録しましょう。

排泄

うんこです。「腸は第2の脳」などと言われますが、便通が悪くなると、頭の具合も露骨に悪くなります。私も過去に、急に気分が塞いできて、これはうつ状態の訪れか……?と心配していたところ、うんこをしたらたちまち良くなったということがありました。また、脳の神経と腸の神経は関係が深いそうで、脳の具合が悪くなれば腸の具合も悪くなる、その逆もまたしかりということらしいです。

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そのため、うんこをした日時を記録しましょう。また、便の回数だけではなく、中身(色や形状、固いか柔らかいかなど)にも注目しましょう。うんこをまじまじと見るのは少々抵抗があるかもしれませんが、メンタルヘルスのためですから仕方ないです。

気分

その日の気分についても、毎日記録しましょう。睡眠や食事と違って、客観的に測ることは難しいですが、たとえ主観的であっても数値化して、継続して記録することをおすすめします。

私は双極性障害で気分の上がり下がりがあるため、「ふつう」を0として、‐5(うつ状態)~+5(躁状態)の11段階で、毎日の気分を評価・記録しています。

気分の推移に注目することは、どういうきっかけで自分の気分のバランスが変わるのかを発見するためのヒントにもなります。

入浴

「風呂キャン(お風呂をキャンセル)」なんて言葉がありますが、入浴できるかどうかという点も、分かりやすいシグナルになります。私の場合、うつ状態が悪化すると、風呂をキャンセルしがちになります。つまり、風呂をキャンセルしがちになってきたということは、うつ状態が悪化しているのだと分かるわけです。

入浴についても、いくつかの段階(スケール)に分けて、数値化して記録することをおすすめします。たとえばシャンプーまでできたら2、シャワーを浴びたら1、入浴できなかったら0、みたいな感じです。

行動量

今日はどれくらい行動したかについても、記録しておくことをおすすめします。たとえばベッドから起き上がった、家事ができた、外出できた、どれくらい外出できたか(外出していた時間や移動距離など)も、自分の状態を把握するために役立ちます。

私の場合、うつが悪化するとベッドから動けなくなります。逆に躁が悪化すると、ほぼ1日中外出しているか、家の中でも常になにかしている状態になります。我ながら分かりやすくて助かります。

記録を継続するために

日記をつけろ

さて、ここまで読んで、「こんな面倒なことやってられるか!」とお怒りの方もいらっしゃるのではないでしょうか。私なら怒りますね。うんこをするたびにメモを取って……そんなことは馬鹿げています。

自分の心身の変化を記録することは、とても大事なことです。しかし、記録する行為が負担になってしまったら本末転倒です。では、どうすれば継続して記録することができるのか、一番良い方法は何か。

それは、日記をつけることです。寝る前にその日の出来事を書くか、あるいは起きてから前日の出来事を書くか、タイミングはどうでもいいのですが、日記をつけることをオススメします。睡眠や食事といった個々の項目について、何をどう書くかはあらかじめ決めておくとよいでしょう。

「記録」というといかにも味気なくてつまらなさそうですが、「日記」というとなんだか素敵な感じがしてきませんか?日記をつけましょう。

記録や評価を意識しすぎない

毎日の睡眠時間や食事量、気分や入浴などについて数値化して記録していると、「最近夜更かし気味だなあ」とか、「気分が落ち込んだ日が続いているなあ」とか、「食事の量が増えすぎているなあ」とか、自分の生活のダメな面が可視化されてしまって、落ち込んでしまうことがあります。

ただ、そもそも何のために記録をしているのか、それは「自分の状態について具体的に医者に伝えるため」です。睡眠時間が短い日が続いていようと、気分がマイナスの日が続いていようと、それが現在の自分の状態である、それ以上の意味はありません。なので、落ち込む必要はありません。

もちろん、寝不足の日が続いているから今日は早く寝ようとか、最近は風呂キャンしがちだから今日は頑張ってシャワーを浴びようとか、生活を改善する方向に考えて行動することは、間違いではありません。ただ、生活のスコアを取り繕うために頑張るよりは、「昨晩は一睡もできなかった」「うつで死にたい一日だった」「飲み過ぎ食べ過ぎで何度も嘔吐した」「もう1週間シャワーを浴びていない」のようなネガティブな記録こそ、正確に記入したほうが良いと思います。それが現在の自分の正確な状態であり、医者が知りたいのはまさにそれだからです。

患者としてできることをする

念のため断っておきますが、私は心療内科を過度に擁護したり、「5分診療」を肯定したりするつもりはありません。本来であれば、薬物療法と心理療法はセットで行うべきなのです。診察にはもっと時間をかけるべきですし、臨床心理士・公認心理師のような医師以外の専門家が治療に深く関わるべきだと思います。

しかしながら、現行の医療体制はそこまで整備されていません。臨床心理士・公認心理師の数は足りていません。それ以前に、臨床心理士や公認心理師が満足に生計を立てられるような仕組みがありません。

患者から見ると、どこに専門のカウンセラーがいるのか分からない。心理療法へのアクセスは悪いです。また、心理療法の費用負担が大きいため、おいそれと受けられるものではありません。現状を肯定することはまったくできません。しかし、これは患者個人では如何ともしがたいことです。

文句を言っても仕方がないので(文句は言い続けますが)、患者としてできることをやっていこうと思います。その1つが、この記事で紹介した、心療内科の診察の受け方です。ド素人の患者が、医者という専門家と上手くコミュニケーションを取ることはかなり難しいことです。率直に言うと、私たち患者と、心療内科医との間には、深刻な認識の違い、大きなギャップがあると感じています。しかしこれも如何ともしがたいことです。医者と協力できるかどうかによって、治療の意義や効果は大きく変わります。現行の医療制度に膝を屈するようでなんだか悔しい気がしますが、患者としてできることなら、何でも喜んでやりましょう。

ふざけた書き方になってしまった箇所があり恐縮ですが、心療内科を受診するにあたって僅かでも参考になれば幸いです。ご笑覧いただきありがとうございました。

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