『放送禁止』シリーズとは
みなさんは「放送禁止」というTV番組のことをご存知でしょうか?2003年からフジテレビの深夜帯で不定期に放送されている「モキュメンタリー」番組です。
モキュメンタリー(mockumentary)とは、「真似」を意味するmockと、「事実の記録」を意味するdocumentaryを組み合わせたかばん語で、ドキュメンタリーっぽく見せたフィクションのことを言います。やや古い映画ですが、『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』なんかは代表的なモキュメンタリー映画でしょうか。日本では「フェイク・ドキュメンタリー」とも呼ばれます。
『放送禁止』シリーズは、「ある事情で放送禁止となったVTR」が「再編集された」り、「ネットに流出した」りしたというていで制作されています。ジャンルとしてはホラーなのですが、番組を流し見しているだけではホラーとは気づかない、ドキュメンタリー性の高さが特徴です。
この番組のテーマは「事実を積み重ねることが必ずしも真実に結びつくとは限らない」というもの。ドキュメンタリー調のメインストーリーで提示される「事実」だけではなく、一見本筋とは離れているように見える事象や、画面のすみっこに移る細かなサインを拾い集めることで、「真実」が浮かび上がってきます。些細な演技や演出、チラッと映るだけとちょっとした小道具が大きな意味を持つことも多々あるため、画面から目が離せません。観てて疲れます。過去に放映された作品は、ネットの配信サービスで観ることができます。
今回紹介するのは、2014年10月に公開された『放送禁止』シリーズの劇場版3作目です。本作に限った話ではありませんが、『放送禁止』シリーズはどれもドキュメンタリーとしての筋立ての裏にホラーの要素が隠されており、やや複雑な構成となっていますので、順番に説明します。
なお、みなさんにも観てもらいたい気持ちが先行した結果、記事がアホみたいに長くなってしまったので、その1(ストーリーの紹介)と、その2(ネタバレと考察)の2記事に分けています。
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『放送禁止 劇場版3「洗脳〜邪悪なる鉄のイメージ〜」』ストーリーの紹介
ネタバレになりそうな部分は隠しています。反転すると読めますが、せっかくなので後から読むことをオススメします。
あらすじ
あることがきっかけで強い洗脳を受けた元主婦、江上志麻子。彼女を襲った、幸せな家庭を壊した本当の真実とは?全てを明らかにするため、志麻子の脱洗脳を試みる心理セラピスト 小田島霧花。志麻子の親友であり、ビデオ・ジャーナリストの鷲巣みなみが、洗脳を解く過程をカメラで追う。そこに映し出された恐るべき事実とはー。
(Apple TVより引用)
※リンクは見つからず……Apple TVのアプリで検索すると見つかります。
登場人物
江上 志麻子(えがみ しまこ)
もともとは普通の主婦。久慈マリアから強い洗脳を受けた結果、夫と離婚。家に上がり込んできた久慈マリアに生活を支配され、キャバクラで働かされていた。その後火災で息子・乃理を喪う。現在は小田島霧花の元で脱洗脳の治療を受けている。
↓深刻なネタバレ
乃理くんは死んでない。
↑深刻なネタバレ
小田島 霧花(おだじま きりか)
脱洗脳のスペシャリスト。鷲巣みなみから志麻子の治療を依頼される。
鷲巣 みなみ(わしず みなみ)
志麻子の親友。ビデオジャーナリスト。霧花に志麻子の治療を依頼し、その過程を映像に記録している。
五十嵐 孟(いがらし たけし)
志麻子の元夫で、乃理の父。元証券マン。志麻子との関係は良好だったが、仕事にかまけて家庭を顧みなくなってしまった。その後、不倫の疑いをかけられ退職・離婚。以後は職を転々とし、現在は運送会社のドライバーとして働く。離婚後も志麻子につきまとい、裁判所から接近禁止を言い渡されている。
江上 乃理(えがみ のり)
志麻子と孟の息子。志麻子の家で起きた火災で死んでしまう。
↓深刻なネタバレ
乃理くんは死んでない。
↑深刻なネタバレ
久慈 マリア(くじ まりあ)
料理研究家でカリスマ主婦、スピリチュアルな人生相談も行っている。裏では支持者の弱みにつけ込んで洗脳し、家庭を崩壊させ、財産を搾取している。被洗脳者から子供を取り上げて、反社と結託して人身売買をしているという噂もある。
ストーリー
劇中では時系列が前後する上に、次々と新事実が発覚します。とりあえず時系列順に並べました。長い上に、映画を観れば分かることなので、流し読みする程度でOKです。
2010年頃
マリアによる志麻子の洗脳が始まる。
孟の不倫疑惑。孟は否定するも、相手(孟の女性顧客)が不倫の事実を認めたため、孟は退職を余儀なくされる。
↓ちょっとしたネタバレ
ちなみにこの「女性顧客」、孟の退職後は会社が引き継いだが、その後連絡が取れなくなる。
↑ちょっとしたネタバレ
マリアから「孟が不倫している」と聞かされた志麻子は孟と離婚。さらに家の権利をはじめとした財産をマリアに渡してしまう。
志麻子の家で、マリア、志麻子、乃理、3人の生活が始まる。志麻子はマリアに
マリアは乃理を「孟の邪悪な血が流れている子供」と言い、「九州の児童養護施設に入れる」ことを志麻子に強要する。志麻子が拒否すると、マリアは志麻子に激高。志麻子は精神的に追い詰められ、ますます強く洗脳されていく。
2011年9月
マリアが志麻子の元から姿を消す。
↓ちょっとしたネタバレ
自殺現場近くのコンビニの防犯カメラに、姿を消す直前の久慈マリアが映っていた。店の外にはどこかで見たことのあるトラックが。
↑ちょっとしたネタバレ
2012年3月23日
志麻子の家で火災が発生。消防署によると、原因はタバコの火の不始末。志麻子の家が無くなる。乃理くんが死ぬ。
↓深刻なネタバレ
乃理くんは死んでない。
↑深刻なネタバレ
2012年4月頃
みなみが志麻子の治療を霧花に依頼する。
志麻子は霧花の家に引っ越して、治療が始まる。
↓深刻なネタバレ
2012年6~7月頃
治療の最中に、霧花の人格が志麻子に転移する。霧花はこの状況を利用して治療を続けることに。
治療者である霧花と、被治療者である志麻子が入れ替わる形で治療が始まる(つまり本作では終盤までずっと志麻子が霧花を、霧花が志麻子を「演じて」いる)。
↑深刻なネタバレ
2012年9月13日
本作がスタート。舞台は大きく分けて2つ。1つは治療パート。霧花の家のリビングで、ソファーに座った志麻子が、肘掛け椅子に座った霧花からの問いかけに答える形で進む。みなみは横でカメラを回している。
今でもマリアを信奉している志麻子。霧花がマリアを否定するような発言をするたびに、志麻子はパニックになって激高する。
もう1つは屋根裏パート。霧花の家の屋根裏部屋で、霧花とみなみが並んで椅子に座り、モニターに映った志麻子の姿を見守る形で進む。
みなみが霧花に「志麻子はタバコを吸わないのに、タバコの火の不始末はおかしい。火災の原因は放火ではないのか?」と話す。霧花は否定的な態度を表すが、みなみは「久慈マリアが放火したかもしれない」と言って、調査を始めることを告げる。
2012年9月16日
喫茶店。みなみが久慈マリアと接点があった女性にインタビュー。タバコの火を消すみなみ。1年ほど前から久慈マリアとは連絡が取れなくなっているという。以前マリアは「(誰かから)警察に行くぞって言われてて、その人と話に行くって……」と言っていたらしい。
治療パート。「あなたが子供の頃のことを教えて?」霧花は志麻子に問いかける。「子供の頃……そんなに楽しいことなかったです。親が亡くなって、親戚のところを転々として……」と答える志麻子。
屋根裏パート。みなみは再び「久慈マリアが放火したのではないか?」と霧花に話す。霧花は「マリアは理性的な人間だと思う。家の権利はマリアのものだが、自分の財産に火をつけるだろうか?」と、マリア放火説に否定的な意見を見せる。
「ちょっと私は、1人心当たりがある」と霧花。
部屋でうなだれる志麻子の映像。アルファベットのパネルを「EVIL」と並べる。
2012年9月17日
孟のアパートの玄関口。みなみが孟に接触。不倫と火災について探りを入れる。孟は不倫についても火災についても否定。不倫については、「僕は嵌められたんです、あの女に」と語る。また、「まだ志麻子のことを愛している」「何をしてでも家族を守る絶対に」と語る。孟はみなみと話す間、アメスピ(紫)を吸っている。
公園のベンチ。みなみが孟の証券マン時代の同僚に接触、孟の不倫について質問。「相手は顧客の女性。五十嵐さん(孟)は否定してたけど、相手の方が不倫の事実を認めちゃって」「その顧客の女性の引き継ぎをしたけど、その後連絡が取れなくなった」との証言。
屋根裏パート。みなみが霧花に「孟の吸っているタバコが火災現場に残されていた吸殻と同じ銘柄であること」「孟には火災発生時のアリバイが無いこと」を話す。それを聞いた霧花は「確固たる証拠がないと……」と、孟放火説にも懐疑的。
また、みなみは霧花に「五十嵐さんは志麻子のことを憎んでいる様子は無かった、むしろまだ愛していると言っていた」と伝える。これに対しても霧花は「口ではなんとでも言えるから……」と、これにもまたまた懐疑的な反応。
モニターを見ていたみなみが、霧花に「ここに子供の影が映ってませんか?」と話す。霧花はモニターを見るが、何か別の影が子供の形に見えるだけでしょう、と一蹴。
モニターには部屋でうなだれる志麻子の映像。アルファベットのパネルを「EVIL IRON」と並べている。
2012年9月18日
治療パート。霧花が志麻子に「マリアと会う前のあなたについて教えて?」と問いかける。
3人で暮らしていた頃の、幸せな思い出。乃理くんが幼稚園の入園式の前にはしゃぎすぎて、机の角で頭を切って救急車で運ばれて、入園式に出られなかった話。その後志麻子と乃理くんと孟の3人で、ケーキを買ってお祝いをしたと話す志麻子。
「楽しい生活が、いつから変わったの?久慈マリアに出会ってからだよね。あなたは乃理くんまでも、久慈マリアに差し出した」霧花がそう問いかけると、志麻子は強いパニックを起こす。
「違う!」強く否定する志麻子。
「あなたは躊躇したよね。でも一瞬でも手放そうとしちゃった」
「やめて!違う……違うの」
その時、部屋の中から微かに子供の足音と笑い声が……霧花達は気づいていないようだ。
「乃理の声がする……」立ち上がり乃理くんを探すように家の中をうろつく志麻子。
「乃理くんはいません。乃理くんは死んだの!」霧花は志麻子を強く叱責する。
屋根裏パート。その日の映像を見ていたみなみが霧花に「子供の足音と笑い声が聞こえます。乃理くんが志麻子に会いに来たのでは?」と話す。たしかに聞こえる足音と笑い声。しかし霧花は、外の音か何かでしょう、洗脳された人が幻覚や幻聴にあうケースはよくある、霊やオカルトなど不毛で下らない、と一蹴する。
2012年9月25日
屋根裏パート。モニターには、部屋でアルファベットパネルを並べる志麻子が映っている。床には「EVIL IRON IMAGE」の文字列が。 みなみが霧花に「邪悪なる鉄のイメージって、なんか意味があるんでしょうか?」と尋ねる。霧花は、ギリシャ神話のエピソードを引きつつ、「鉄は絶対服従の象徴。志麻子さんにとってまだマリアに絶対服従する意識が残っているのでは」と解説。ほんとぉ~?
マンションのベランダ。みなみが手持ちのカメラに向かって「私は絶対に、志麻子を助けたいと考えている」と語る。
2012年9月26日
みなみが孟の勤務先である運送会社と、孟が行きつけのスナックに聞き込み。スナックのマスターから、3月23日(火災の日)は孟は一晩中店にいたという証言を得る。
屋根裏パート。みなみが霧花に、孟には火災当日のアリバイがあったことを告げる。「ということは、久慈マリアが犯人ですかね?」と聞くみなみ。「その可能性は高まった」と答える霧花。
直後、テレビのニュースで、久慈マリアの遺体が発見される。警察によると、抵抗した痕跡が無いので死因は首吊り自殺、死後1年ほど経過していたとのこと。
「あの火災は久慈マリアの怨念?志麻子に天罰が下ったのか?」と疑うみなみ。「でもマリアの怨念じゃないかって……私、なんだか怖いんです」そう繰り返すみなみに対して、霧花は「オカルトなんて……」と呆れつつ、「でもこれで誰が火をつけたのか分かった。もうすぐ真実が明らかになる」と言う。
2012年9月28日
治療パート。霧花は志麻子に「火事があった日のことを教えて?」と問いかける。霧花から「あの日は何時に家に帰ってきたの?」と聞かれると、志麻子は「分からないです、覚えてないです」とパニックになる。
霧花は立ち上がり、志麻子の頬を打ち、「答えなさい!」と厳しく詰め寄る。「小田島さん、大丈夫ですか?殴るのはよくないと……」戸惑うみなみ。「大事なことなの。思い出してみて?あの日は何時に帰ってきたの?」霧花がそう聞くと、志麻子は、お店が終わって2時くらいに帰ってきたこと、疲れてすぐ寝たこと、タバコは吸わないこと、気づいたら家が家事になっていて、乃理を探したけど見つからず、また気づいたら病院にいて、乃理は死んだと話した。
「なんで火事は起きたんだろうね?あなたはタバコを吸わない。孟にはアリバイがある。マリアは当時既に死んでいた。誰かがあなたと乃理くんを殺そうとして、家にタバコを投げ入れた。誰だか教えてあげましょうか。それはね、あなたのことが憎くて憎くて仕方のない人。あなたが洗脳されているのが楽しくてしょうがないの。あなたの家族が不幸になっていくのが愉快でしょうがないの。あなたが親友だから心配だとカメラで追い回して、あなたを見世物にしようとしているの」
カメラの方を向く志麻子と霧花。
「あなたなんでしょう?家に火をつけたの、鷲巣みなみさん」みなみに詰め寄る霧花。
「本気で言ってるんですか……?」戸惑うみなみ。
「あなたは高校時代から志麻子にコンプレックスを持っていて、ずっと憎かった。あなたの唯一の優越感は幸せな家庭に育ったこと。志麻子は親戚の家を転々としていたから。でも志麻子が証券マンと結婚して家庭を手に入れてしまったことが、憎くて憎くて堪らなかった」強い剣幕でみなみを責める霧花。
「志麻子は美人だから羨ましいと思ったことは何度もある、でも親友だから恨んだことは一度もない」戸惑いながら答えるみなみ。
「本当のこと、言って」みなみににじり寄る霧花。
「助けたいと思ったから……」霧花に圧倒されたみなみは、呟くようにそう答える。
「あなたはタバコを吸うでしょう。あなたは自分の吸っていたタバコを志麻子さんの家に投げ入れた。カメラで追いかけ回しているのは、自分の犯行がバレるのが怖いから、監視しているんでしょう?あなた、放火って言い出したでしょう。放火というキーワードを出して自分は容疑者から外れようとしたでしょう。それ間違ってるから。私はピンときた」まくし立てる霧花。
「ちょっと待ってくださいよ……」戸惑うばかりのみなみ。
「言いなさいよ!」さらにヒートアップする霧花。
すると、泣きながら床に座り込んでいた志麻子が突然立ち上がり、「みなみさん、もういいでしょう。アンワインド(unwind、「解く」「戻す」という意味)」と言って、霧花の腕を掴む。
「ちょっと手を貸して。大人しくして」志麻子が霧花のシャツの袖をまくると、そこには大きな火傷の跡が。霧花が志麻子の身体を掴み、「あなた誰なの?答えなさい!アンワインド!」と言うと、霧花はその場に泣き崩れる。
「アイデンティティの崩壊が起きました。心配ないです。元の人格に戻りました」志麻子は倒れた霧花を抱きかかえながら、みなみに向かってそう言った。
屋根裏パート。モニターには、部屋でうずくまる霧花の姿が映っている。モニターを注視するみなみの隣には、志麻子の姿が。なんで?
実は治療の途中で、治療者・小田島霧花の人格が、被治療者・江上志麻子に転移してしまった。それ以降、霧花は自らが「強い洗脳状態にある江上志麻子」を演じることで、治療者と被治療者の役割を逆転する形で治療を続けていた。分かりやすく言えば、今まで小田島霧花だと思ってた人は本当は江上志麻子であり、江上志麻子だと思ってた人が小田島霧花だった、ってこと!
志麻子の中の「霧花」の人格が崩壊したことで、志麻子は元の「江上志麻子」の人格に戻った。そして霧花も「志麻子の役」を演じる必要が無くなり、脱洗脳スペシャリスト・小田島霧花に戻ったのだ!霧花、服装も表情もパリッとしてカッコいいぜ!
「志麻子って、今どんな状態なんですか?」みなみが霧花にそう尋ねる。
「小田島霧花の人格は消えたが、久慈マリアの洗脳は解けきれていない状態です」霧香はそう答え、治療が続けられる。
脱洗脳の治療の過程で混乱した志麻子の中に、副作用として「小田島霧花」の人格が生まれてしまった。しかしこうした副作用は珍しいことではない。私はこの状況を利用して、2人の役割を交換し、3ヶ月間「江上志麻子」を演じ続けた。志麻子さんは「小田島霧花」になりきることで、自分自身を客観的に見ること、また久慈マリアという存在をそれまでとは違った視点から見ることができた。そして、「小田島霧花」になりきっているとはいえ、志麻子の口からマリアを否定する言葉が出てきたことは、脱洗脳の効果が出ている証拠。霧花はそう語った。
「でも、まだ洗脳されてるんですよね?」不安そうに聞くみなみ。
「洗脳が解けるまでに、そんなに時間はかからないはず。志麻子さんの洗脳が解けた時に、すべての真実が明らかになると思う」落ち着いて答える霧香。
「その時に、私達の計画が実行されるわけですね」みなみは緊張した口調でそう言った。
みなみの言う「計画」とは……?
2012年10月3日
みなみが再び運送会社とスナックに聞き込み。孟の両腕に酷い火傷の跡があることと、実は3月23日に孟はスナックにはいなかった(スナックのマスターは孟から「いたことにしてくれ」と頼まれていた)ことが判明。さらに、火災現場の映像に、孟の会社のトラックが映っていた。
屋根裏パート。みなみは霧花に、孟には火災当日のアリバイが無かったことを伝える。
「五十嵐さんは現場にいたんですよ」みなみは興奮気味に話す。
「真相は志麻子さんの口から聞けると思います」霧花は落ち着いて答える。カッコいいぜ!
2012年10月10日
治療パート。霧香は志麻子に「あなたの心を占領していた久慈マリアは死にました。あなたは解放されたんですよ」と語りかけ、志麻子を抱きしめる。
「でもまだ完全じゃない。あなたには何かが取り憑いている。か弱き存在が。いつもあなたのそばにいる。あなたもよく知っている」
霧花がそう言うと、志麻子は「嫌だ!」と叫び、強いパニックを起こして、霧香から逃れる。
「あなたには、小さな子供の霊が取り憑いてるね。あなたの真実を聞かせて。あなたは乃理くんを愛していましたか?答えて」逃げる志麻子を追いながら、霧花はそう問いかける。
「愛してた。私の全部だったの。私の宝物だったの。」志麻子は泣きながら、絞り出すようにそう言った。
「じゃあ教えて?志麻子さん、火事の日に何があったの?」霧花がそう聞くと、志麻子は「本当に覚えてないの!」と叫んだ。
「思い出して。あの日のことがわからないと、乃理くん、ずっと苦しむんだよ」霧花は問いかけを続ける。
「私が、乃理を殺したんだ……」志麻子がそう呟く。「何があったの?」霧花が尋ねる。
「あの日、私すごく酔っ払ってたの。孟が置いてったタバコ吸ったの。初めて吸ったの。起きたら、煙と火が……私が殺しちゃったんだよ。どうしてマリアと出会っちゃったんだろ。マリアが全部グチャグチャにしたんだよ。私が弱かったから……乃理、ごめんなさい」
志麻子は台所へ走っていき、包丁を掴み、自分の手首に当てる。「死なせて!お願い!」
「志麻子!」みなみが志麻子に駆け寄り、必死で包丁を取り上げる。
「志麻子さん、もう1回聞いていいかな?乃理くんのことを愛していましたか?」霧花が志麻子にそう問いかける。
志麻子は泣きじゃくりながら「はい、愛してました」と答える。
志麻子は立ち上がると再び包丁を掴み、自分の手首に当てる。
「死なせてください」志麻子は懇願するようにそう言った。
「それがあなたの真実ですね?」霧花が尋ねる。
「はい」志麻子が答える。
「止めませんよ」そう言い放つ霧花。
「ちょっと、ちょっと」あからさまに動揺するみなみ。
部屋の中に、子供の足音が響く。周りを見渡す志麻子。包丁を持ったまま足音がする方へ向かうと、そこには──死んだはずの乃理くんがいた。呆然と立ち尽くす志麻子。手放した包丁が床に落ちる。乃理くんは志麻子の脚に抱きついて、泣きじゃくる。志麻子も屈んで乃理くんを抱きしめ、号泣する。
画面が暗転。テロップが入る。
2012年10月10日、被洗脳者 江上志麻子の治療終了
強烈な洗脳状態にあった江上志麻子の精神は 正常な状態に復元することに成功した
施術者 小田島霧花
2013年4月10日
みなみが志麻子の元を訪れる。現在の志麻子は、近くにいい感じの公園がある、住みやすそうな部屋に住んでいるようだ。また、最近はスーパーのレジで働いていると話す。しばらくすると、乃理くんが帰ってくる。どこかで遊んできたのか、顔が泥で少し汚れている。志麻子が「なにしてたの?」と聞くと「ちょっとね〜」と答える乃理くん。かわいい。窓際でお絵描きをして遊ぶ志麻子と乃理くん。そして窓の外には、どこかで見たあのトラックが──
そして答え合わせのように提示される「真実のピース」。事実を積み重ねることで真実に結びついたような気が……しないでもありません。
<終劇>
本編の紹介はここまで。次の記事でネタバレ含む考察に入ります。